約 14,822 件
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1899.html
とある少女の悪巧み―シリアスver― 1 12月下旬、この日番外個体は上条と美琴に会うため第7学区の『あの』公園に来ていた。第3次世界大戦が終わり、上条が学園都市に帰ってきて1ヶ月ほどが経ったいた。そして最近は上条に美琴が付きっきりで勉強を教えている、という情報を番外個体が偶然手に入れ、その際に悪巧みが生まれたことが今回の騒動の始まりだった。その悪巧みとは自分が未来から来た2人の子どもだと言い驚かす、という企みだ。学園都市に戻って来て1ヶ月ちょっとが経ったが、番外個体は未だ上条とも美琴とも面識はない。一方通行が上条に自分のことを話したこともないようなので好都合だ。だが会うため、とはいってももちろん会う約束などはしていない。だから事前に最近の上条と美琴についていろいろと調べて、この公園で待ち合わせをしていることを知ったため、ここにやってきたというわけだ。「さ~て!どこにいっるのっかな?」今の時刻は5時過ぎ、この時間帯に2人は待ち合わせをしているらしいのでいるはずなのだが……「ん~……?いた!いたいた!!」いた、しかも2人そろって。番外個体は目を輝かせて2人の元へ走っていく。「ちょ~とそこのお二人さん♪」元気よく声をかけると上条は「なんだ?」といった様子で、美琴はあからさまに嫌そうに振り向いた。どうやら美琴は上条との2人っきりの至福の時を邪魔されたと感じたようだ。しかし振り返った時の様子は違っても番外個体を見た2人の反応は同じだった。「「………え!?」」目の前にいる少女の存在が信じられない、といったような反応だ。すると美琴が声を荒げる。「ちょ、アンタ何者!?まさか私の新しいクローン!?」いきなりの正解、しかし番外個体は動揺しない。こういうことくらいは予想していたし、完璧にだますため何度も練習してきた。「やだな~違うって!ミサカはクローンなんかじゃないよ?」「じゃ、じゃあお前何者なんだ!」番外個体としては『まってました!』というような質問だった。「ミサカ?ミサカはね~……未来から来た2人の娘だよ☆」「「………は?」」上条と美琴の反応を見て番外個体は快感を覚えた。(~~~~~~!!うわっ!なんかめっちゃ気分いい!!騙すのって最高~♪)気分がかなりよくなった番外個体はさらに饒舌に続ける。「ミサカの名前は御坂麻琴、20年後の未来からきたんだ。」「え、あ、そ、そんなわけない……だろ…?」そんなわけない、口ではそうは言っても上条は心の底ではそう思っていなかった。魔術、吸血鬼の存在、あのクローンの実験のこと、人の中身の入れ替わり、学園都市襲撃事件、イギリスでのクーデター、第3次世界大戦などなど……それらの出来事、またそれに関わっている最中にどんでもないことを体験してきた上条にとって未来から子どもが来ることは否定しきれなかった。「いやいや~ミサカは正真正銘、2人の娘だから!証拠は…この外見でどう?」そう言うと番外個体はくるりと回ってみせた。「じゃ、じゃあ私……コイツと…結婚してるの…?」「もちろん!まあお母さんが不幸にならないために、ってことで上条性じゃなくて御坂性だけどね。」上条と美琴はまだ信じきれないというような表情をしていた。そこで番外個体は1つ面白そうなことを思いついた。「詳しいことは……また明日話すよ!今日はもう未来へ帰らないといけないからさ♪」それは今日は本当のことを話さず1日じらすということ。本当ならこの日話すつもりだったが2人は予想以上にうまくひっかかってくれた。そのため急遽予定を変更することにした。「じゃ、明日の5時にまたここに来るから!2人ともちゃんと来てよね!」そして番外個体は黄泉川のマンションへ向かって走り出した。上条と美琴は何か言おうとしていたようだがそこは華麗にスルーした。これ以上何か話してボロを出さないためだ。(あっは!これは明日が楽しみ楽しみ~☆)番外個体は上機嫌で公園を出た。だがこの嘘がのちに大変な出来事を引き起こすことになるとは思ってもいなかった。◇ ◇ ◇この少女はいったい何を言っている?上条はわけのわからないまま御坂麻琴と名乗る少女の話を聞いていた。自分と美琴の娘?そんなことありえるわけがない。しかしそう思おうとして過去の経験からありえないことはない、と思ってしまう。ただただ膨大な疑問が生まれたが、その疑問を生んだ少女は詳しいことは何も言わずにどこかに去っていってしまった。(ちょっと待て……俺と御坂の娘!?しかもアイツの話からすると俺が20歳の時の子どもなのか?いや落ち着け上条当麻、こんなことがありえるわけ……ない…?…ありえるんじゃないか?魔術だって存在したし……じゃ、じゃあ俺は御坂と付き合って結婚するのか!!?)頭の中は完全にパニック状態。落ち着け落ち着け、と上条は深呼吸をする。しかしあまりの衝撃的な出来事になかなか落ち着きを取り戻すことができない。そこで隣の美琴のことを思い出し落ち着くためにも声をかける。「あ、あのだな御坂、その、えーとなんだ、子どものことなんだが―――――」そこまで言った上条にかなり強い電撃がとんだ。もちろん右手でかき消しはしたがあまりの強さに尻もちをついた。「お、おい御坂何を……」上条はびびりまくっていた。今まで鉄橋で美琴を止めた時以外にこれほどの強い電撃を撃たれたことはないからだ。当たれば死ぬのではないか、というほどの電撃だった。そんな上条と目を合わせることもなく電撃を放った美琴は常盤台の寮の方向へ全速力で走って行った。「え……御坂?」上条は呆然と美琴が走っていった方向を見ていた。空が暗くなってきた寒さが増してきた公園に上条は1人取り残された。◇ ◇ ◇「ヤバい……う、嬉しい……」ここは常盤台の寮、美琴は自分の部屋のベッドに勢いよくダイブすると幸せそうな表情を見せている。美琴としては今日も上条に勉強を教えるつもりだったのだが恥ずかしさのあまり電撃を撃って逃げて来てしまった。2人きりになれる時間は今日はなくなってしまったが上条と結婚できることがわかったのだ。これで嬉しくないはずがない。「さ、さっきは恥ずかしさのあまり電撃撃っちゃったけどアイツなら大丈夫よね?それにしても子どもかぁ……」麻琴の話だと18歳で妊娠することとなるようだが正直それは困る。18歳ということは美琴はまだ高校生か大学生だ。親にも学校にも迷惑をかけることになるし学園都市がどんな行動にでるかわからない。しかし今子どもを生まなければ麻琴の存在はなかったことになってしまう。18という年齢で子どもを産むのは少し早い気がするが自分は生まなければならない、なんとも複雑だ。「でもできちゃうんだろうなぁ……あと……アイツはもう私のこと好き…なのかな……」美琴としては今の上条の気持ちが気になってしょうがない。ひょっとしてもう自分のことを好いてくれているのだろうか?もし好いてくれているなら、それを考えると幸せな気持ちがあふれてくる。しかし美琴には上条が自分のことを好いてくれているか、など確かめる勇気は到底ない。だが明日麻琴と名乗る自分の未来の娘が何か行動を起こしてくれたなら、上条と付き合えるかもしれない。「早く明日に……明日にならないかな……」明日が楽しみで楽しみで仕方がない。結局この日美琴は1睡もできなかった。◇ ◇ ◇翌日の放課後、美琴は大急ぎで学校を飛び出した。理由はもちろん上条に会うため。本当はメールか電話で会う約束をしようと思っていたのだが緊張してできなかった。「いつもの公園にいれば会えるわよね……あれ?」いつもの公園に向かって走っていたのだがその足が止まる。上条がいた。いつもはこの場所は通らないはずなのでなんで?と思ったがそんなことはどうでもいい。「ちょっとアンタ、こんなとこで何やってんのよ!」いつもより嬉しそうに声をかけた――――――――――のだが、ビクッ!と上条はいつもより驚いて振り返った。「え……アンタどうしたの…?」振り返った上条はいつもの上条ではなかった。いつも自分を対等に見てくれる上条とは違う、何かに怯えているように見える。「み、みさ、か……………ご、ごめん!!」それだけ言うと美琴に背を向け全速力で走っていってしまった。「ちょ、ちょっと!………行っちゃった……なんで…?」あまりにわけがわからなかったので美琴は追うに追えなかった。その場でなぜ上条は自分を避けるような行動をとったのだろうか、と少し考えた後答えは出た。「あ……アイツ…私と結婚するの…嫌なんだ……」最悪の結果。上条は自分のことなど好いてはいなかった。むしろ一緒にはいたくない存在だった。昨日突然現れた娘、その娘から聞いた未来の状況。その状況から一緒にいれば確実に結婚するだろうことが容易に想像できる、つまり上条はそれを避けるために自分を避けたのだ。遠ざけるのに謝ったのは彼の優しさからだろうか?美琴は上条が走っていった方向を見つめながらその場に呆然と立ち尽くした。まるで魂が抜けたように―――――◇ ◇ ◇「あれ~?おっかしいな~……」この日も番外個体は上条と美琴に会うためあの公園にきていたのだが2人の姿が見当たらない。昨日は『5時にここに来てくれ』と言ったが少し準備に手間取り15分ほど遅れてしまった。「ひょっとして帰ちゃったのかな……ん?」今日は諦めようかと思った時、探していた人が目に映った。上条はいないようだが美琴がこちらに向かって歩いていた。番外個体としては昨日あれから2人がどうなったか気になって仕方がない。「いたいた~♪おーい!お母さ―――」早く話したいと思い叫びながら美琴の側へ走っていったがその声は途中で途切れた。「あ……麻琴……」「ちょ、ちょっとどうしたの!?」番外個体が驚くのも無理はない。美琴からは全く生気が感じられなかった。「何!?何があったの!?」「……う、うぅ……アイツ、が……」「アイツ?アイツって誰!?その人に何かされたの!?」その言葉に対し美琴は小さく首を横に振り、ついにこらえきれなくなったのか涙が溢れ始めた。「まこっ、と、わ、たし、もうっ、どうし、て、いいっ、か、わか、らな、い……」それだけ言うと美琴は番外個体に抱きつき大声で泣き出した。これで番外個体はさらに驚いた。番外個体は今まで美琴とは会ったことはなかったが、ミサカネットワークを通じて美琴の性格などは完全に把握していた。だから美琴が『妹達』の事件以外で泣くということはありえないという考えがあったからだ。「ちょっと落ち着いて!ほ、ほらあそこにベンチで詳しく話聞くからさっ!」番外個体は今にも倒れそうな美琴をベンチへ連れて行き座らせた。その際美琴に肩を貸したのだが驚くほど脱力していることがわかった。そしてベンチに座った美琴はうつむいて泣き続けた。番外個体にはそんな美琴の背中をさすることくらいしかできなかった。(なんでこんなことに……?まさかまた何か実験に巻き込まれたとか?)美琴が落ち着くまでいろいろと考えはしたが結論はでなかった。すると「麻琴……ごめんね、ありがと……」少し落ち着いたのか美琴は顔をあげこちらを向いていた。しかしまだ元気はなく目は真っ赤だ。「そ、それで何があったの?」番外個体としてはなぜ美琴がこんな状態になってしまっているのか気になってしかたがなかった。「あのね……アイツ、私のこと…嫌いだったみたい……」その言葉を聞いて番外個体は『アイツ』が誰か理解し、それと同時に美琴がなぜこんな状態に陥ってしまったのかも少しだが理解できた。「さっきアイツに会ったんだ……でも…でもアイツは―――」美琴は先ほど上条と会った時の出来事をすべて話した。話している最中美琴は必死で涙をこらえていた。「未来から来た麻琴ならわかるでしょ?私がどれだけアイツの事が好きか……」「え、あ、まぁ……」「アイツは私にとって欠けちゃダメな絶対的存在だった。ロシアから帰ってきたときアイツの存在のありがたみがわかって結構積極的にアタックしてたんだけど……無駄だったみたいね……」番外個体はミサカネットワークにより美琴が上条のことを好きだということは知っていた。だからこそ2人の子どもという嘘をついたのだ。しかし、ここまでとは思いもしなかった。美琴の上条への想いはもっと軽いものだと思っていたのだ。だがそれは違った。美琴にとって上条はすべてであり、唯一絶対の存在だった。美琴の想いをすべて理解した番外個体はとんでもないことになってしまった、と焦りを隠せなかった。だがそんな番外個体の様子に美琴は気づかない。そしてふいに美琴はこう言い出した。「ねぇ……パラレルワールドって…知ってる?」パラレルワールド、つまり今いる世界とは別に存在する平行世界のことである。「え、まあ、知ってるけど……」「じゃあ話しは早いわね…きっと麻琴はパラレルワールド、つまり私たちとは別次元の未来から来たのよ。」ここまで聞いて美琴が何を言いたいかわかった。「だから私とアイツが麻琴の話す関係にならなくても麻琴は消えたりしないはずよ……でも……」美琴はそこで一旦言葉を切った。そしてここまで必死にこらえていた涙が再び溢れだした。「私も……私も麻琴の世界の私みたいに、アイツと一緒に幸せになりたかったなぁ……」そして美琴はまた顔を下に向け声を押し殺すように泣き始めた。その様子に番外個体はもういても立ってもいられなり自分が未来から来た子どもではないと言おうとした。―――が、番外個体は開きかけた口を閉じた。本当のことを言ってどうなる?本当のことを言えば上条が美琴を避けている、という状況だけが残りなんの解決にもならない。ならば―――「……大丈夫だよ、絶対幸せになれるから。」「…………え?」美琴は涙を流したまま顔を上げ、番外個体が立っているほうを見た。「パラレルワールドなんかじゃない、ミサカはこの世界の未来からきた子どもなんだから安心してよ!」番外個体は嘘を重ねた。だが悪意のある嘘ではない。少しでも美琴を安心させたい、という思いからついた嘘だった。「だからちょっとここで待っててくれないかな?ミサカが…ミサカが絶対なんとかするから!」それだけ言い残し番外個体は上条の元へ走り出した。上条がどこにいるかはわからない、だがそれでも今の美琴を見ると何か行動に移さずにはいられなかった。◇ ◇ ◇上条当麻は怯えていた。御坂美琴に忌み嫌われることに―――――学園都市に帰ってきてからのこの1ヶ月あまりは楽しかった。またみんなと学校生活が送れるようになったし事件も何も起こらない。補習や寮に帰ってきた後にする膨大な課題は大変だったが、補習はクラスメイトに、課題は美琴に教えてもらいながらだったので楽しくできた。それに美琴は毎日付きっきりでとても丁寧に教えてくれいるのでとても助かっている。そしてインデックスは小萌先生のところに預かってもらっているため、毎日上条の部屋で2人きりだ。さらに夕飯までも作ってくれたりもしてくれていた。上条はそんな美琴に恋愛感情を抱くようになった、とまではいかないが美琴を親友かそれ以上の存在だと思っていた。だが昨日の出来事ですべてが変わった。美琴は自分となど一緒にいたくないのだ。今まで勉強を教えてくれていたのは『妹達』の事件での借りを返すためであってそれ以上は何も思っていなかった。だから昨日あれほど強い電撃を撃ってきたのだろう。自分との子どもができる、将来的には結婚する、それを嫌がって消し去りたいと思ったのかもしれない。それが上条にとってこの上なく恐ろしかった。そして放課後、上条はいつもと違う道から帰ることにした。「とにかく……今日は御坂とは会わねぇようにしねぇと……」まだ気持ちの整理ができてないため今日だけは絶対に会いたくない。その思いからいつもとは別の道を選んだのだが―――「ちょっとアンタ、こんなとこで何してんのよ!!」今1番会いたくない相手に見つかってしまった。まさかこの道で会うことになるとは思ってもいなかったので上条は思いっきり驚いた。美琴は今からどんな行動にでるだろうか。電撃を撃ってくるか、いや電撃ならまだいいほうだ。もし忌み嫌っていることを言葉にされたら?消えろ、などと言われたら?上条は少し治まっていた『怯え』が全身に広がるのがわかった。美琴など直視できない。ただ絞り出すように「み、みさ、か………ご、ごめん!!」と、だけ言って走りだす。後ろなど振り向かずただただ全力で走る。もし追ってこられていたら?と考えたため全くスピードを緩めずに、目的地など決めずに、とにかく体力がなくなるまで走り続けた。どこまで走ったかわからないが体力も尽き、上条はいつもと違う公園で足を止め中央にあった噴水の淵に手をついた。「はっ……はっ……クソッ!!俺は……怖い…のか?」ふと下に目をやると水面には自分の姿がはっきりと映っていた。その表情は怯えきり、憔悴しているようにも見える。「なんて表情してんだ……これでどうやって御坂に会えばいいってんだよ……」もう美琴とは会わない、などと考えはしたがそうはいかない。未来から子どもが来ているのだ、もし会わなければ未来は変わってしまう。しかしどうやって美琴に接していけばいいのだろうか。その答えは、どうやってもでてこない――――――――――◇ ◇ ◇「ダメだ…どこにもいない……」ここは上条の寮の前、もう完全に日は暮れすっかり暗くなってしまってる。美琴と別れてからすでにかなりの時間が経過、その間いろんな場所を走り回ったがまだ上条を見つけることはできていない。『ミサカネットワーク』により上条の部屋を知っていたため寮に来ることはできたが、まだ帰ってきていなかったため途方に暮れていた。「お姉様にはああ言ったけど……どうしよう……」番外個体は上条をなかなか見つけられないことにいらだり、焦りがピークに達しようしていた。一体上条はどこへ行ったのだろうか。美琴を嫌って避けているのであれば絶対に会わないようにするため友人の家にでも行っているかもしれない。もしそうなったら今日は上条に会うことはほぼ不可能だ。「くそっ!ミサカがあんな嘘ついたせいで……」いらだちのあまり自分を責める。自分が2人の子どもだという嘘さえつかなければ美琴はあんなに苦しむことはなかった。その思いから罪悪感でいっぱいになる。それに上条と会ったとしても、もし上条がはっきりと美琴のことを嫌っているなどと言ったら?そうなった場合最早どうしようもなくなる。どうする?どうすればいい?番外個体は今までにないほど脳をフル回転させ対策を考えようとした。何かないか、この状況を解決する方法は―――――「み、御坂……」と、そこに聞いたことのある声が聞こえてきた。その声のする方向をむくと、いた。上条だ。暗くてはっきりとは見えないが上条であることは間違いない。だが向こうは暗くて見えないためか自分のことを美琴だと勘違いしているようだ。「あ、あのさ…」番外個体は自分が美琴ではないことを告げようとすると「ま、待て御坂!お前の言いたいことはわかってる!俺のことを嫌いだって言いたいんだろ!?」などとわけのわからないことを言い出した。それも早口で話しているしなぜか右手を前に出している。「俺はお前に嫌われたって別にいい!けど麻琴のこともあるし1回でいいから話しを「ちょっと!!」…」依然早口で話し続けている上条の言葉を番外個体が遮った。「ちょっと……勘違いしてない?」「え……あ…麻琴か……」ようやく上条は目の前にいる少女は美琴ではないと気づいたようだ。上条はほっと一息ついてから近づいてきた。近づいてきてわかったのだが上条の顔色はあまりよくない。「麻琴、それで…なんでここに…?」「なんでって……お母さんのことなんだけど。」番外個体は上条に対してもまだ本当のことを言わないと決めていた。言わないほうが美琴について聞くのに都合がいいからだ。「な、なんだ?」「その前に、さっき言ってた“俺のことが嫌いなんだろ?”ってどういうこと?」番外個体は当初ストレートに美琴をどう思っているのかを聞くつもりだった。しかし先ほど上条が言ったことがどうも府に落ちないのでそちらから尋ねることにした。「いや……そのままの意味だよ。御坂には……嫌われてるからな……」「はぁ!?」番外個体は驚いた。美琴に嫌われている?上条が美琴を嫌っているのではなかったのか?「はぁ!?って……まあ未来から来たお前が驚くのも無理ないか……」「い、いやそういうわけじゃ……なんで嫌われてると思ってるの?」「そりゃ嫌いじゃなかったらあんな強い電撃撃ってこないだろ……」電撃、確かに美琴がさっき説明したとき上条に電撃を撃ったと言っていた。ならば上条も美琴もただの勘違い……?そこで番外個体は上条に確認をとる。「あの……お母さんのこと嫌いじゃなかったの……?」「俺が御坂のことを……?何言ってんだよ、そんなわけないだろ?毎日勉強教えてもらってありがたいと思ってるのに……それに俺はむしろ御坂のことを―――」上条はそこまで言って言葉を切った。番外個体には上条がなぜそこで話すことを止めたのかわからなかった。上条は何かに気づいた、という表情をしているように見える。「?何?どうしたの?」「いや……なんでもない……」上条は寂しそうにそう答えた。結局上条が何を言おうとしたのかはわからなかったが番外個体には1つわかったことがある。それは上条は美琴のことを嫌ってなどいない、ということ。それがわかっただけで心底安心した。もし上条が美琴のことを嫌っているのであったなら対策のとりようがなかった。だが嫌っていないというなら誤解を解くだけだ。ここで番外個体は考える。どうやって2人の誤解を解くか。上条を美琴の元へ連れていくのが1番てっとり早いのだがどうやって連れていくべきか。自分が2人の娘ではないと話してからでもいいがそれだと説明に時間がかかる。今は一刻でも早く美琴の元へ戻りたい。ならば―――「まあ安心してくれ麻琴、御坂とはいずれなんとか話をつけるからさ。じゃ、もう遅いから上条さんは―――」そう言って寮へと入って行こうとした上条を番外個体は腕を掴んで引き止めた。「お、おい麻琴?何を……」「今ね、お母さんがすっごいピンチなんだ、だからミサカはここへ来たんだよ。」「!!?」番外個体はまた嘘をついた。だがこれも決して悪意のある嘘ではない。2人を救うための嘘だ。それにこうでも言わないと上条を公園へ連れていけないと考えたからだ。驚きを隠せていない上条に対し、さらに番外個体は続ける。「今公園でお母さんはすごく苦しんでる。もちろん病気とかじゃないよ?」「それほんとか!?御坂に何があった!?」「……それは…お父さんに嫌われてると勘違いしてるんだ。」「え……?」そして番外個体は上条に説明する。美琴がなぜ上条に電撃を放ったのか、今どのような状態になっているかなどだ。ただ美琴が上条に好意を抱いているということは話さなかった。「それは……本当のことなのか…?本当に御坂は俺のことを嫌って…ないのか?」「本当だって!!とにかく急がないと!お母さんを救えるのはお父さんしかいないんだから!」番外個体の真剣な表情に上条は即座に決断する。「よし麻琴……公園まで走るぞ!!」「うん!」こうして2人は全速力で公園へと向かった。かなりハイペースで走ったため思いのほか早く到着できた。だが―――「あ、あれ?いない?なんで?」美琴が待っているはずのベンチに美琴の姿はなかった。「お、おい!ここに御坂がいるんじゃなかったのか!?」「ちょ、ちょっと待ってってば!とりあえず探さないと!ミサカはこっちを探すからさ!」まさかいなくなっているとは思ってもいなかったため2人はパニックに陥る。そして焦りながらも二手に別れて公園内に美琴の姿がないか探し始めた。◇ ◇ ◇「どこにもいねぇ……御坂のやつどこ行ったんだよ……」上条は真っ暗になった公園で美琴を探し続けていた。数分間探したがどこにも美琴らしき姿は見当たらないし暗くて近くしか見えない。他に誰か人がいれば美琴らしい人を見なかったか、尋ねようと思ったが人すら見当たらない。とりあえずさっきのベンチに1度戻ろうとすると「アンタ……なんで…ここにいるの……?」「!!?」美琴がいた。どうやら飲み物を買いに行っていたらしく手には缶ジュースが握られている。見つけることができた、ほっと一安心したがそれがいけなかった。緊張していた気持ちが解けてしまった。そのため治まっていた『怯え』がまた上条の中に姿を現した。「なんでって……麻琴に呼ばれて…お、お前のことが心配になってきたんだよ……」『怯え』のため声が震える。本当に嫌われていないのだろうか、昨日と今日のことを思い出すと正直のところ番外個体の言ったことは完全には信じられなかった。今すぐにでも拒絶の言葉を浴びせられるかもしれないと思うと足がすくむ。「あ、の御坂、それで…大丈夫……なのか?」「………大丈夫よ。」それを聞き上条はほっと胸を撫で下ろした。『怯え』も少し治まった。だが―――「あのね、アンタに言いたいことがあるの。」言いたいこと、その言葉に上条の鼓動は一気に加速するし今までで1番大きな『怯え』が心を蝕んだ。「い、言いたい……こと…って…なんだ…?」聞きたくない、しかしその意思に反して逆に聞いてしまう。頼む、今だけは不幸よ起こらないでくれ、上条は心の底からそう願った、しかし―――「うん、私ね、もうアンタと会わないようにしようと思うの。」「え―――――」恐れていたことが起こった。美琴からの拒絶。やはり美琴には嫌われていた。すべてわかり目の前が真っ暗になった。美琴が何か言っているようだが全く耳に入らない。そして美琴は上条に背を向け立ち去っていく――――― とある少女の悪巧み―シリアスver― 2 ◇ ◇ ◇美琴は暗くなった空の下、公園のベンチでずっと待っていた。日が落ちたためかなり寒い、だが麻琴の言ったあの1言が美琴をこの場に留めさせていた。「幸せになれる、か……」今や麻琴の存在だけが美琴を支えていた。麻琴がこの世界の未来からきたというならば、自分は上条と一緒にいられる。パラレルワールドのことを考え1度は麻琴の存在も揺らいだ、しかし今は信じてただただ麻琴の言うことが本当であってくれと祈っていた。「にしても麻琴遅いな……飲み物でも買ってこよ。」そしてあの自販機でヤシの実サイダーを買い、ベンチに戻ろうとした時、「アンタ……なんで…ここにいるの…?」上条とはち会わせた。驚いたが麻琴が連れてきたんだろうと理解した。そして美琴は少し期待していた。ひょっとして上条はこれからも自分と一緒にいてくれるのではないかと。だがその想いはもろくも崩れた。「なんでって……麻琴に呼ばれて…お、お前のことが心配になってきたんだよ……」ああやっぱりそうか、と美琴は思った。上条の言葉と態度でわかった、やっぱり上条は自分のことを避けたがっている、と。上条の声は震えており今までの態度とは違った。目を会わせてくれないし一定の距離をとろうとしている。やはり前の関係には戻れないのだ。それは美琴にとってとても悲しいことだった。上条に大丈夫か?と聞かれたので大丈夫と答えたが内心はボロボロだった。そして美琴は1つの決断を下す。「あのね、アンタに言いたいことがあるの。」それは美琴にとって、とてもとても大きな決断だった。「い、言いたい……こと…?」「うん、私ね、もうアンタと会わないようにしようと思うの。」本当はこんなこと言いたくなかった。しかしどうせもう元の関係には戻れないし上条は自分を避けようとする。ならば、いっそのこと自分から遠ざけようと考えたのだ。「アンタも私に会いたくないんでしょ?なら丁度いいじゃない、私としてもアンタに迷惑かけたくないしね。」この言葉に対し上条は何も言わない。ただこちらを見続けているだけだ。「そうだ、もう1つ言いたいことがあったわ……」美琴は泣きたかったが我慢した、これ以上上条に罪悪感を感じさせないために。「今まで、ありがと……さよなら……」そして上条に背を向ける。それと同時に目から大粒の涙が溢れかける。だがまだ泣けない、せめてこの公園を出るまでは我慢しなければ。そのまま公園を立ち去ろうとする。と―――「いたっ!!やっと見つけたよ。」息を切らした麻琴が現れた。麻琴を見た美琴の足は止まった。◇ ◇ ◇番外個体は上条と美琴の様子がおかしいことに気づいた。だがそれより2人の誤解を解きたかった。「2人とも、少し……いや、たくさん話したいことがあるんだけど、いいかな?」番外個体は上条と美琴にそう尋ねた。しかし2人は全く返事をしない。「ちょっと聞いてる!?話を聞いてほしいんだけど?」そう言って美琴の腕をひっぱった。「あ……うん……ごめんちょっとぼーっとしてた…」美琴は素直に従った。しかし上条は何も見えず、何も聞こえず、意識がないようにも見えた。「………えい。」「!!?」あまりに上条が無反応なので番外個体は微量の電気を上条に流した。「ねぇ……ちょっと聞いてくれる?」「お、おう……」上条は急な衝撃に驚いた様子だったが無意識状態は治った。これで話を聞いてもらえる状況は調った。「それで話って…なんなの?」「あ、うん、今全部話すから。」そして番外個体は1度深呼吸をした。嘘をついてこんな状況を作り上げてしまったことに上条と美琴は怒るだろう。それにこれから2人はまともに接しようとしてくれないかもしれない。だがそれでも自分で蒔いた種だ。意を決して話しだす。「じゃあまずは……2人とも…ごめんさない!!」番外個体は頭を下げ上条と美琴に謝った。「え?な、何がだ?」謝られたことに上条は全く理由がわからなかったし美琴は上条との関係が悪化してしまったことに対しての謝罪だと思った。だがもちろん番外個体はそんな意味で謝ったのではない。「あの、冷静になって聞いてね。実はミサカは―――」番外個体の言葉の後、真っ暗な夜の静かな公園はより一層静まり還った。世界中の時が止まっているような感覚にみまわれる。それほど公園は静かだった。そんな静寂の中、美琴はゆっくり口を開く。「今……なんて言ったの…?」美琴はそうは言ったものの本当は聞こえていた。だが番外個体の言ったことはとてもではないが信じられないかった。「もう1度言うよ、ミサカは未来から来た2人の子どもじゃないんだ。本当はお姉様のクローンなんだよ。」クローン、その単語に上条は食いつく。「ク、クローンって……また何か実験が行われてたってことか!?」「それはないから安心してよ、ミサカのことは後でちゃんと説明するから。」上条は怪しんでいたがとりあえず番外個体の言うことを信じた。「じゃ、じゃあ……あの話はすべて…嘘?」「うん…嘘ついて本当にごめんなさい!」2人は混乱していた。何がどうなっているのか。つまり、あれが嘘で、何が、本当?そして上条がようやく理解したことは麻琴は未来から来た自分たちの子どもではないということだた。だが美琴の気持ちについてよくわからなかった。さっき寮の前で番外個体が言ったことが本当なのか。美琴が言った“会わない”ということが本心なのか。そこでおそるおそる美琴を見てみると―――「な!?おい御坂!」美琴は泣いていた。目から大粒の涙がとどまることなく、そしてそれを隠すことなく泣いていたのだ。美琴としては麻琴の存在は最後の希望だった。麻琴が上条と自分の子どもなら、まだ上条とうまくいく可能性はある。パラレルワールドの話しをしたときも、つい先ほど上条に会わないと告げた時も、心の底ではこれから麻琴の言う通りに上条と恋人の関係になれるのではないかと淡い希望を持っていた。だから先ほど番外個体が話をしたいと言ったときも素直に従ったのだ。だがその最後の希望も完全に失われてしまった。麻琴が自分たちの娘ではないとわかった時、美琴の中で何かが崩壊した。番外個体が『クローン』と言ったことも耳に入らない。ただ泣くことしかできなかった。「御坂!!」「お姉様!」そんな美琴を見て上条と番外個体は美琴の元へ駆け寄った。だが側までは近づけない。美琴の顔は真っ青になり、全身は震え、かなりの電気が漏れだしてきていた。上条には『幻想殺し』があるが電気は拡散しているため近づけば上条でも黒こげになってしまうだろう。美琴の状態はおかしさは尋常ではない。完全に能力のコントロールが失われていた。上条も番外個体も美琴がなぜこんな状態になってしまったのか全くわからなかった、が、番外個体には美琴のこの状態を抑える方法があった。「お姉様聞いて!!」この声が今の美琴に聞こえているかはわからない。漏れだす電気は徐々に増え、広範囲に広がっているため上条も近づけない。だが、それでも番外個体は美琴へ話しかけることを止めなかった。「お姉様は、嫌われてなんかない!」公園内に番外個体の声が響き渡った。そしてそれと同時に美琴から漏れだしていた電気が弱くなった。声が届いた、そうわかった番外個体は間髪入れずに「上条当麻はお姉様を嫌ってなんかない。」と、美琴に告げた。それが聞こえたのか美琴から漏れだしていた電気はほとんど止まり、少しだが生気が戻ったような気がした。「……それ……本当…?」美琴はうつむきながらぽつりとつぶやいた。それはとても小さく、消えてしまいそうな声だった。だが上条と番外個体にはしっかりと聞こえていた。「ほんとだよ。ね?」「ああ!本当だ、御坂、嘘なんかじゃねぇ!嫌ってるどころか最近俺は御坂と一緒にいることが楽しいんだ。」上条の言葉を聞いた美琴はゆっくりと顔を上げた。目には光が戻ってきている。「じゃ、じゃあなんで…あの時私から逃げたの……?」あの時、というのは今日の昼の出来事のことだ。少しの静寂の後、上条は口を開く。「それは……御坂に嫌われてると思って……それで、その、怖くなって逃げたんだ。」「だからさ、簡単に説明するとお姉様も上条当麻も、2人ともが嫌われてるって勘違いしてたんだよ。」番外個体が付け加えて説明した。そして美琴の震えが止まった。「勘違い……?じゃあアンタは…私のこと嫌いじゃないの……?」「ああもちろんだとも!何度でも言うけど嫌ってなんかねぇよ。」それを聞いた美琴に完全に生気が戻った。もう顔色も悪くないし電気も漏れていない。「よかった……ほんとによかった……」「そうだ……あの、俺も聞きたいけど御坂は俺のこと…嫌ってないよな?」「当たり前じゃない!嫌ってなんかないわよ!私はむしろアンタのことが―――――」美琴はそこまで言うと急に顔を真っ赤にして再びうつむいた。「??どうした御坂?今何が言いたかったんだ?」鈍感な上条は美琴が何を言おうとしたのかわからなかった。だが番外個体は違った。(今……お姉様絶対好きって言おうとした…よね……そういえば上条当麻もさっき同じようなことを……まさか!?)1人考え込んでいる番外個体の前では美琴がテンパっていた。「な、なんでもない!そ、そうだ!昨日も今日も電撃放ってごめん!!」美琴は照れ隠しに急に話題を変えた。明らかに不自然だったが上条は気にしない。「ああ、別に気にすんなよ。ちょっとびっくりしたけどな。」「ほ、ほんとにごめん……思えば私の電撃で勘違いが始まったんだもんね……」自分から話題を変えたのになんだか落ち込んでしまう。そんな美琴に上条は優しく受け答えをする。「だから気にすんなって。俺もお前から逃げちまったしおあいこ様だよ。」「う、うん……あの、さっきは会わないなんて言っちゃったけど…これからも今までの関係で……いてくれる?」「ああ、もちろんだとも。そんなこと聞くまでもないさ。」また上条と一緒にいられる、美琴の凍っていた心は完全に溶かされた。すると番外個体が美琴の腕を引っ張った。「ちょっとお姉様!」「え、な、何よ。」番外個体は上条に聞こえないように美琴と話す。「お姉様は今のままでいいの?」「へ?ど、どういうことよ?」「だから上条当麻との関係が今のままでいいのかって言ってるの!」「―――――――!?そ、そりゃ……やだけどさ……今はこのままでも―――――」「じゃあ今告白しよ!告白!!」そう言う番外個体の目は輝いていた。美琴の言うことなど聞いてはいない。番外個体には上条が美琴を好きだという確信がある。だからうまく2人を付き合わせれば少しは今回の騒動の償いにもなるし面白いものも見られる。その思いから数分間、必死に美琴を説得した。「ほ、ほんとなの?本当の本当?」「ほんとだって!ミサカを信用してよ!」かなり悩んだが美琴は先ほどとは違う大きな決断をした。そして美琴はありったけの勇気を絞り出した。「あ、あのさ―――――」◇ ◇ ◇美琴が決死の告白を実行してから数分後。美琴と番外個体はベンチに腰掛けていた。結論から言おう、美琴の告白は失敗に終わっていた。美琴は放心状態で番外個体がいくら声をかけても何の反応も見せなかった。すると“長いこと寒空の下にいて冷えちまっただろ?”と言って暖かい飲み物を買いに行っていた上条が戻ってきた。「コーヒー買ってきたぞ!えーと……番外個体だっけ?ほら。」「ああ、ありがと……」番外個体はコーヒーを受け取り美琴が座っている左側を見る。「……ほら御坂、コーヒー…飲むだろ?」上条がなんとも気まずそうにコーヒーを渡そうとしていた。そんな上条に対し美琴は無言で受け取った。ぎくしゃくした様子の2人を見た番外個体は耐えきれなくなった。「……あのさ…1つ言ってもいいかな?」「……なんだ?」番外個体は美琴、上条、そして手に持っているコーヒーの順番に視線を移してからため息をつく。「……2人とも……せっかく付き合うことになったんだからもっと何か話したら?」「う……話したらって言われても……なんか、その、話しづらくて……なぁ?」「ぅん……」訂正しよう、上条は気まずそうにコーヒーを渡していたのではない。恥ずかしかっただけだ。そして恥ずかしかったのは美琴も同じ、だから無言で受け取ったのだ。放心状態だったのは上条と付き合えたことが信じられない、ということだった。前途多難だね、と番外個体はため息まじりにつぶやいた。そしてなぜ美琴の告白が失敗に終わったのに2人が付き合うことになったのか、ということだが理由は簡単。「でもびっくりしたわよ、まさかアンタのほうから告白してくれるなんて……」美琴の言葉通り上条が告白したのだ。つまり美琴の告白は失敗したが上条の告白が成功したというわけだ。美琴は告白を決断したにもかかわらず、なかなか言い出せなかった。しかしそれを見た上条は奇跡的に美琴の言いたいことを察した。否、奇跡ではないのかもしれない。「そりゃ……番外個体のおかげだよ。」「へ?」「今回のことで俺にとってどれだけ御坂が大切な存在かわかったからな、それもこれも番外個体の作り話のおかげさ。ありがとな。」予想外だった。まさかお礼を言われるなんて思ってもいなかった。責められて当然、いつ責められるかとさえ考えていたところへのお礼。番外個体はなんだかむずかゆくなり先ほどの美琴と同じように強引に話題を変えた。「あ、いや、そ、それにしてもお姉様……以外とヘタレだったね…あれだけミサカが後押ししてあげたのに……」「い、いやあれは……もう少ししたら言うつもりだったのよ…」番外個体は目をそらし苦笑いするしかなかった。(……本当にミサカはこのお姉様のクローンなのかな?)それから3人はコーヒーを飲み終わるまでの数分間、今回の騒動や番外個体についてなどいろいろ話しをしていた。「あー……もうこんな時間か……もっといろいろ聞きたいんだけど…今日はもう遅いしまた明日会えるか?」「あ、うん。ミサカもそのほうがいいかな。」現在の時刻は8時前、当然完全下校時刻は過ぎているし番外個体もそろそろ帰らないと黄泉川が心配しだす時間帯だ。それに12月のこの時間帯はかなり寒かった。「……なあ御坂、寒くないか?」「そりゃ……寒いけど?」「じゃあ俺の上着貸してやるよ。」そう言って上条は上着を脱ごうとした。「へ?い、いいいいいやいいわよそんなの!アンタが寒くなるでしょ!」美琴は顔を少し紅くしながらそう言った。ちょっとした上条の気遣いがとても嬉しく、それだけで全身が暖かくなったように感じる。と、急に上条は美琴に顔を近づけた。「ぅえ!?な、何よアンタ!」「いや…顔赤いみたいだけど大丈夫か?」暗くて見えづらいため上条はさらに美琴に顔を近づけた。それを見た番外個体は何か面白いことを思いついたかのか、ニヤリと笑って上条に背を軽く押した。「「―――――!?」」番外個体に押された上条はどうすることもできずそのまま前によろけた。そして前にあるのは美琴の顔。つまり―――「それは今回の騒動のお詫びだよん♪じゃ、また明日ねお二人さん!初キスおめでと☆」それだけ言って番外個体は黄泉川のマンションへと帰っていった。「な、な……やられた……」上条はこれ以上ないというほど顔を真っ赤にして番外個体が走り去って行った方向を見ていた。唇にはまだ柔らかい感触が残っている。そこではっと気づく。今美琴はどんな反応をしている?付き合うことになったのだからキスをして怒っている、ということはないだろう。しかしもし機嫌が悪くなっていたら?ゆっくり後ろを振り返ってみると……「………お前…すっごい嬉しそうな顔してるな…」美琴は顔を赤くしながらも最高に幸せそうだ。それを上条に指摘され慌てて顔を下に向ける。「しょ、しょうがないじゃない!だって……嬉しいんだもん……」「……なら…もう一回するか?その…俺としては…ちゃんとしたいし……」「!?」美琴は素早く顔を上げた。少し驚いた様子だったが何も言わずにそのまま目を閉じた。「う……」自分からすると言ったのだがやはり恥ずかしい。数秒戸惑ったあとようやく行動に移す。美琴に近づき肩に手をおいた。「その…じゃ、じゃあ…ん―――」本日2度目のキス、今度は上条の意思でのことだ。数秒後、恥ずかしそうながらもとても幸せそうな2人の姿があった。すると急に美琴が「あ、あのさっ!さっきの……訂正していい…?」と、言い出した。“さっきの”と言われても上条にはそれが何を指しているのかはわからない。だがそこまで言われて断るわけにもいかないので承諾する。美琴は上条と目を合わせ恥ずかしそうに「えと……今までありがと…そして…これからもよろしくね。」そう言った。上条には何を訂正したのかわからなかった。しかし今の言葉が悪い意味でないことはわかる。「ああ……よろしくな、美琴。」そして2人は少し言葉を交わすと美琴は上条の右腕に抱きつき、仲睦まじく上条の寮の方向へと歩いていった。そして公園には誰もいなくなった――――――ように思えたが「にゃはっは~いいもん撮っちゃった♪」その声とともに番外個体が姿を見せた。実は帰るふりをして物陰に隠れていたのだ。そして右手にあるのはカメラ、もちろん学園都市製のもので暗闇でも、どんな距離でもはっきり写るすぐれものだ。このカメラを用意していたため5時に公園に来られなかったのだ。さらにこのタイプはすぐに写真が出てくるタイプ。番外個体の左手には2人がキスしている写真と仲良く寮へ向かって行く写真があった。「抱き合ってる写真でも撮れるかと思ったけど予想外に面白い物が……これは明日が楽しみ楽しみ♪ 今度は今日みたいなことがないようにしないとね☆」今回は予想以上の騒動になったがそれでも悪巧みは止められない。どうやらとある少女の悪巧みは明日も続くようだ―――
https://w.atwiki.jp/tabris0913/pages/327.html
黄泉戀湯浴み 地獄温泉~源泉かけ流し~ 黄泉戀湯浴み 地獄温泉~源泉かけ流し~ 参の湯★ 蘭丸 「湯守の彼と地獄巡り でえと・いん・八大地獄」 アニメイト特典
https://w.atwiki.jp/magicman/pages/37085.html
黄泉の幻影 メタ・オルゼス (SR) (闇) (7) クリーチャー:ゴースト/デーモン・コマンド/スターグラッジ (8000) ■ソウル・バック:ターン中、2枚以上自分のシールドカードが、クリーチャーの攻撃によってシールドから離れているなら、そのクリーチャーの攻撃の終わりに、手札・墓地からこのクリーチャーをコストを支払わずに召喚してもよい。 ■このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、バトルゾーンに自分のクリーチャーがこのクリーチャーしかいなければ、相手のシールドを、自分のシールドと同じ数になるようにブレイクしてもよい。その後、自分の墓地から、バトルゾーンにいるクリーチャーの中で最もコストの大きいクリーチャーのコスト以下のコストを持つ、進化ではないクリーチャー1体を選び、バトルゾーンに出す。 ■w・ブレイカー ■このクリーチャーがタップされているなら、相手はシールドを攻撃できず、カードの能力でクリーチャーを破壊することができない。 作者:Rose Crown 評価 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/675.html
そのころ、第七学区のいつもの病院にいる浜滝はというと… 「どうして入院しなければならないんだ。」 「はまづら仕方が無いよ。あのゴーレムをまともに肩に当たったんだから。」 浜面は今、入院する事になって病室にいた。 なぜ、浜面が入院しなくてはいけなくなったのかは数十分前… 「「にゅっ、入院!!」」 「そのとうりだが、見たら複雑骨折していたからな。私の手なら今日中には治せたけど、今日一日は安静にしたほうが良いからな。」 という事で浜面は今日、エリハル弐号機のせいで複雑骨折していたもんで入院する事になっていたのだ。 ちなみに、闇咲は今は一緒にいない。 「元々、罰ゲームではなかったのに初春さんに呼ばれて仕方なく付き合うことになったけど、どうして俺だけこうなるんだ?」 「はまづら、終わった事は遅いと思うよ。まあ、このあとのデートが無くなったのは嫌だったけど。」 「俺のせいでごめんな。でも、明日退院したらデートするから。」 「分かった。じゃあはまづら何か買ってくるから。と、その前に。」 というと滝壷は浜面にキスをした。 「じゃあ買ってくるね。」 滝壷は何か買ってくるために浜面の病室から出た。 そのころ、『喰わせ殺し』では盛り上がっていた。 まずは大所帯になってしまった初春達の個室だが、こちらは本当にカオス状態である。 「なるほど、白井さんが言っていたAIMジャマーが超効かない能力者って神裂さん達のことでしたか」 「絹旗、くれぐれも白井黒子達には秘密にしておいて下さい。我々の事情を知っているのなら分かってくれるでしょう?」 「超了解です。白井さんや固法先輩には私から超ごまかしておきますから」 黒子からAIMジャマーが効かない能力者がいるとは聞いていたが、それが神裂達だと知った絹旗は納得した。 絹旗はオルソラの乱の際、ずーっと天草式学園都市支部と一緒に行動し、魔術側の事情もその時に教えてもらっていたのだ。 「飾利だけじゃなく、こんな子まで私達の事情を知ってるとはね」 「絹旗なら問題は有りませんよシェリー。彼女は信頼できる子ですし、暗部のことも知っていますから我々のことにも理解がそれなりにありますから」 神裂とシェリーがこんな風に真面目な感じで話してる理由、それは単に初春が居ないからである。 その初春だが店長に罰ゲーム内容を収めた映像を皆で見られる場所を借りる為に、建宮と木山を伴って交渉に出ていた。 「妹こそ究極! 井ノ原姉、それがどうしてお前さんには分からんのにゃー!」 「寝言抜かすな、腐れシスコンが。 姉こそ最強だ! だからてめーはアホなんだよ土御門!」 こちらは顔を合わせて早々、妹と姉、どっちが素晴らしいかを激論している土御門と真昼。 その様子を真夜と彼に後ろから抱きついている赤音、そして彼氏の妹萌え全開発言に怒りを通り越して呆れている月夜が眺めていた。 「土御門も真昼さんも良く飽きないよなー。どっちが好きでも気持ちが本物なら上も下も無いのに」 「そうだよねー♪ 気持ちが本物なら二人同時でも実の姉弟でも問題ないもんねー♪ まるで私と真夜君と真昼ちゃんみたいに」 「……赤音ちゃん、変わったよね。すごく素直になった感じがするよ。井ノ原君のお陰なのかな?」 「まーね♪ 私の真夜君に対する愛、真夜君の私に対する愛がそうさせるんだー。でも月夜ちゃんも人のこと言えないと思うよ、私」 公然といちゃつく親友の赤音の変わりように月夜はちょっと嬉しく思いながらも、自分もああなのかと思うとちょっと恥ずかしくなっていた。 「ミサカは今日からおじさんの子供になるー! ってミサカはミサカは突拍子もないことを言ってみたり!」 「ぬうっ! そ、それは我の一存では決められぬし、そもそも反対なのである! ヴィリアンからも何か言って……ヴィリアンは?」 「なンか初春に付いて行っちまったぞ。色々お礼を言いたいからとか言ってよォ」 すっかり打ち止めに懐かれてしまったウィリアムは、未だに彼女を肩車したままで料理を口にしていた。 打ち止めの発言に異を唱えたのは彼女の保護者でもある黄泉川と芳川だった。 「あー、悪いけど打ち止め。あんたはウチの子だからそれは駄目じゃん。どうしてもってんなら一方通行は置いてけよ」 「ウィリアムさん、その子を養子にしたいのならもれなく一方通行が付いてくるわよ。それでも打ち止めを養子にする?」 「その少年は結局付いてくるのかそうでないのかどっちなのであるか! いや、そもそも我はこの少女を養子になどしないし、その少年はもっと要らないのである!」 実は昼間だというのにちょっとお酒を召し上がってる二人のペースにさしものウィリアムも途惑うことしか出来なかった。 自分を付属品扱いされて怒れる一方通行をいつの間にかウィリアムの肩から降りた打ち止めが、一生懸命慰めていた。 「二人って忍者さんなんですか! すごい! あたし初めて見ましたよ!」 「へ、へぇ、そうなんだ……。ところで佐天って言ったっけ? イギリス王室の王女様と一緒に来てたけどどうゆう関係なんだ?」 「知り合いです。パーティーをご一緒した仲ってだけですけど」 「それって凄いじゃないですか佐天氏! 半蔵様! これを機に私達も世界に目を向けましょう!」 半蔵と郭に興味を持った佐天は生で見る忍者に感動していたが、第三王女と知り合いだと驚かれるとは思っていなかった。 残るこの個室の利用者はインデックス、ステイル、小萌だが個室には居ない。 理由はインデックスが食欲全開で料理を個室に持ち帰らず平らげ、そんな少女をステイルと小萌が監視しているという、分かりやすいものだった。 「君はもうちょっと控えるべきだ。」 「そうですよシスターちゃん、先生の馬串がなくなってしまうんですよー!!」 「こもえはお酒を飲み過ぎなんだよ!!こもえこそ控えるべきなんだよ!!」 「そ、それは今は関係有りません!!シスターちゃんはシスターちゃんなのですから、神の教え通りに救われぬ子羊ちゃん達に救いの手をではないのですか!?」 「彼女のいう通りだ。少しはシスターとしての自覚を持ってほしいものだね」 「なっ!?タバコを年がら年中吸ってる二人に言われたく無いんだよ!!」 「「タバコが無い世界は地獄という(のです)!!」」 「ハモった!?」 「あっ、ステイルちゃんはまだ未成年なので吸っちゃダメなのです!!」 「さっきも言ったけどタバコが無い世界は地獄というと、一致したでしょう。」 「あわわわわ、タバコを先生に差し出してもダメなのですよ!!」 こうしてる間にもインデックスは食べ進めているのだが、二人はタバコ論議で気づかない。全く、困ったものです。 「まったく、どこに居ても食欲を慎むことを知らないシスターですわね」 「しゃあないって。あれがあの子のキャラゆうヤツやねんから」 インデックスの暴食をテーブルで自分達が持ってきた料理を食べながら観察しているのは青黒。 「それにしても料理をその場で食べるなんて非常識にも程がありますわ。ちゃんとルールは弁えてもらわないと」 「……なあ、黒子はん。せやったらあの子らも非常識の仲間や思うねんけど?」 「あの子達? んげっ!」 青ピが指差す方を見た黒子は女の子らしからぬ声を上げて驚いた。 そこにはインデックスと同じでその場で料理を食べている婚后、泡浮、湾内が人目を気にする事無く食べていたのだから。 「婚后さんはともかく、泡浮さんや湾内さんまであのようなことを……! ○○様、わたくしちょっと注意してまいりますわ」 同じ常盤台の生徒としてインデックスと同じことをされるのは恥ずかしいと思った黒子は婚后達に注意する。 「ちょっとそこのお三方。料理はそこで食べるものではなく、ちゃんと席に持ち帰ってから食べて下さいな」 「白井さん! あなたまでこちらにおいででしたの! ですが何を言ってますの? わたくし達と同じように食べてる方がいらっしゃるではありませんか」 「うぐっ……! あ、あれは特殊な例ですの! バイキング形式がどうゆうものか分かっていらっしゃらないんですの?」 自分達と同じようにしているインデックスを引き合いに出されて困る黒子だが、それでも婚后達に注意する。 しかし婚后の言うことを信じている泡浮が黒子に対して穏やかに反論する。 「立食パーティーみたいなものですわよね? でしたらわざわざ席に持ち帰る必要は無いと思いますが。ねえ? 婚后さん」 「は? あの泡浮さん、バイキング形式とはそもそも……なるほど、そうゆうことでしたの。分かりました、黒子が一から教えて差し上げましょう」 黒子は泡浮の発言に婚后のいつもの見栄っ張りが発動したと思い、バイキング形式の正しい説明をした。 その後で婚后のフォローをし、本人に泡浮と湾内に謝らせることに。 「本当に申し訳ございませんでしたわお二人とも。つい見栄を張ってしまい、あのようなことを……」 「気にしないで下さいまし。わたくし達はそんな婚后さんとお友達でいられて幸せなのですから」 「そうでございますわ。でも、次からはわたくし達に遠慮なく相談して下さいな。わたくし達はお友達なのですから」 更に仲良くなった3人を見た黒子は安心して青ピの所へ戻ろうとしたが、婚后からこんな提案がなされることに。 「ところで白井さんはお一人ですの?」 「え゛? ち、違いますわよ。連れというかわたくしの恋人が一緒なのですが……」 「本当ですの! それは是非ご挨拶しなければいけませんわ! この婚后光子のライバルの一人でもある白井さんの殿方、どのような方か興味がありますわ!」 「い、いや、そのような大層なお方では……いえ、立派なお方ですわ。ですがわざわざ挨拶するほどのことでは……。泡浮さんも湾内さんもお困りではありませんの?」 婚后一人なら力づくで黙らせるのだが、店内ということと人目が多いということから強行手段に出られない黒子。 仕方なく泡浮と湾内に話を振って何とかしようと思っていたのだが、お嬢様の好奇心を彼女は侮っていた。 「「わたくし達も白井さんがお付き合いされてる方にお会いしたいですわ♪」」 「……分かりましたわ(ど、どどどどうしましょう! ○○様は素敵な殿方、それは間違いありません。ですが! あの子達には刺激が強すぎますわ!)」 青ピのことは心から愛してる黒子ではあるが、婚后達の常識をある意味で凌駕してる点で不安だらけだった。 結局断るわけにも行かず、黒子は自分の恋人の青ピを紹介する為に婚后達を連れて自分の席へと戻ることに。 そのころ、神裂とシェリーはシェリーのある一言であることに気づいた。 「そういえば建宮はどこ行ったんだっけ?」 「たしか、飾利と一緒にビデオの交渉している……って」 「「あいつ、気づかない内に飾利と一緒に居やがる!」」 神裂とシェリーは自然に建宮が初春と一緒にいる事に気づいた。 そして、神裂とシェリーは初春の所に向った。 そのころの建宮達はというと… 「さっきから言ってるけど、そんな大勢で見れる所は無いんだよ。」 「ですから、そこを何とかしてくれませんか?」 初春達はビデオを見るのはOKと言われたが、見れる場所が無かったのだ。 「飾利姫が頼んでいるので、そこを何とかお願いしますよね!」 「分かった、分かった。そこまで言うなら何とかしてみるよ。」 という事で、場所は店長が何とかするということで交渉は終わった。 「建宮さん。ありがとうございます。これで何とか見れますね。」 「これも飾利姫の為にやった事なのよね。それに、飾利姫の為ならなんでもごふっ!」 建宮が何か言おうとしたらシェリーと神裂に殴られた。 「いきなり何をするのよね?」 「建宮、どさくさに紛れて飾利と一緒に居たでしょ。」 「そうだ。飾利と一緒に居ていいのは私だけだからな。」 「シェリー、あなたも何回言えば分かるんですかですか。」 さっきまで真面目に話していたシェリーと神裂は、さっきの仲は何のかけらも無く喧嘩していた。 また建宮だが、二人によって床で倒れている。 「そういえばヴィリアンさん。さっきは交渉していたものですみませんでした。」 初春は喧嘩している三人はほって置いて、さっきからいたヴィリアンと話し始めた。 ちなみに木山だが、交渉が終わるとすぐに個室に戻っていた。 「気にすることではない。私はただ、あなたに色々とお礼を言いたかっただけだから。」 「そうだったのですか。お礼なんて良いですよ。」 「私がお礼しないとすまないから。」 「分かりました。」 という事で、ヴィリアンは初春にお礼をした。 「ああ、飾利が王女様と普通に話してる……ああ、初春と言ってた頃が懐かしい。」 「ええと、確か上条からの紹介だったのか?王女様とのご対面って?」 「いいえ、飾利が兄さんの人間関係を極力調べ上げて、紹介してもらったんです。」 「なんか上条氏も初春氏も只者じゃないですね……」 「んであっちのおっさんは?もしかして歳の差カップル?」 ウィリアムは耳をピクンと立てたが三人は気にせず、 「王女様から聞いたんですけど、ウィリアムさんって言うらしくて、なんか命を助けられたみたいで、それからなんやかんやあったらしいですよ?」 「ちなみにそのなんやかんやが一番気になるんですけど?」 「それが教えてくれないんですよー、あっ、そういえば浜面さん?でしたっけ?あの人も危ないところ助けられたみたいですよ?」 「ほう、それは後でお礼しないとな……」 「それはいいいんじゃないですか?ウィリアムさんって兄さん…上条さんですけど…前殺そうとしたらしいですよ?」 「「どんな関係だよ!!」」 このウィリアムと上条との昔話は、必ずこのようなツッコミをするらしい。
https://w.atwiki.jp/persona4/pages/122.html
シャドウ 黄泉比良坂 シャドウ一覧 名前 アルカナ LV HP SP 物 火 氷 雷 風 光 闇 使用スキル ドロップアイテム 怒りの聖典 女教皇 76 382 445 - - - - - 反 反 テトラカーン、マカラカーン、メギドラオン 預言の球 ディバインマザー 女帝 76 415 400 - 弱 吸 吸 弱 - - マハブフダイン、マハジオダイン、メディア、気絶防御 銀狐の毛皮 クレイジーツインズ 法王 76 444 169 吸 弱 - - - 弱 無 ヒートウェイブ、シールボムズ、クレイジーチェーン、気絶防御 悪意の爪 純情のパピヨン 恋愛 76 305 511 - - - - - - - マハタルカジャ、マハラクカジャ 愛の鱗粉 永遠の砂時計 運命 77 342 243 - - - 弱 - - 無 淀んだ空気、アニマフリーズ メビウスの砂 帝王蟲 皇帝 77 274 231 耐 - - 弱 - - - ギガンフィスト、チャージ プラチナの甲羅 寂滅の女御 剛毅 77 430 179 - - - - - - - 烈風波 緋金錦の飾り緒 原初のマリア 女教皇 77 338 523 - - - - - - - メギド、メギドラ、メギドラオン 理力石 ファントムナイト 隠者 78 325 438 - 弱 - - - 無 弱 ハマオン、マハンマオン、ムドオン、マハムドオン 悪魔の布 怨恨の塔 法王 78 358 475 - 吸 弱 - - - - マハラギダイン、アギダイン、白の壁 真実の冠 囲ひ女の壺 女教皇 78 385 218 反 弱 弱 弱 弱 反 反 超吸血、超吸魔 クラインの壺 グランドマグス 魔術師 79 401 644 耐 耐 弱 耐 弱 - 弱 アギダイン、マハラギダイン、ジオダイン、マハジオダイン、コンセントレイト 生体金属 断罪の剣 正義 79 437 149 - - 弱 - - 反 弱 五月雨斬り、利剣乱舞、カウンタ、チャージ 聖金の塊 博愛のクビド 恋愛 79 262 252 - - - - - - - ポイズンアロー、マハタルンダ、マハラクンダ、アムリタ、魔封防御、気絶防御 潔白の珠 エターナルイーグル 女帝 79 395 262 - 耐 弱 - - - - メギドラ、ヘビーカウンタ 告死の皮 アケロンサーチャー 隠者 79 223 208 - 吸 吸 吸 吸 弱 - マハラギダイン、マハガルダイン、マハブフダイン、マハジオダイン、気絶防御 謎の眼球 月形の翁 隠者 80 345 383 耐 - 反 弱 - - - オールド・ワン、ガルガリンアイズ セフィロトの杖 哀のヘカトンケイル 刑死者 80 505 298 耐 - - - 弱 弱 無 ガルダイン、マハガルダイン、超吸血 切り裂き木馬 ネクスト・ジェーン 運命 80 625 339 弱 吸 吸 吸 吸 - - 淀んだ空気、愚者のささやき、魔封防御、気絶防御 不可思議な繊維 暴走の砲座 戦車 80 854 174 耐 - - 弱 - - - ブフーラ、マハブフーラ、コンセントレイト、魔封防御、気絶防御 必中砲弾 雷鳥のパンツァー 戦車 81 521 120 - - - - - - - 烈風波、マッドアサルト、ヘビーカウンタ、気絶防御 未知の砲身 反逆のキュクロプス 刑死者 81 308 428 - - 弱 無 - - - ジオダイン、マハジオダイン、コンセントレイト 鮮血に染まる刺 禁欲の蛇 恋愛 81 345 259 耐 弱 - - - - - アニマフリーズ、超吸血 禁断の鱗 バスタードライブ 戦車 81 385 169 - - - 弱 耐 - - マインドスライス、ハイパーカウンタ、万能耐性 白金の巨大歯車 ぶりりあんとキング 皇帝 81 246 256 耐 - - - - 無 無 ジャッジメント、召喚(天罰のダイス) 白銀の糸 天罰のダイス 運命 82 500 189 - 反 反 反 反 - - 自爆 天罰の真綱 エルドラアニマル 剛毅 82 408 94 - - 弱 - - 無 無 チャージ、ゴッドハンド、ヘビーカウンタ 無慈悲の飾り緒 無の巨人 正義 82 822 133 - 無 無 無 無 無 無 バルザック、気絶防御 魂砕きの綱 ネオミノタウロス 刑死者 82 999以上 379 耐 弱 - - - - - アカシャアーツ、マッドアサルト、気絶防御 暴虐の皮 出世ジュンシー 刑死者 82 307 300 耐 吸 吸 弱 弱 - - テトラカーン、マカラカーン、マハタルカジャ、マハラクカジャ、脳天落とし、気絶防御 無敵フェルト 無慈悲の巨兵 正義 83 100 130 耐 耐 耐 耐 耐 - - チャージ、イノセントタック、攻撃の心得、防御の心得、コーチング 輝石の繊維 名前 アルカナ LV HP SP 物 火 氷 雷 風 光 闇 使用スキル ドロップアイテム 上へ 出現階(△は敵シンボルが赤の時) 名前 1 2 3 4 5 6 7 8 怒りの聖典 ○ ディバインマザー ○ クレイジーツインズ ○ ○ 永遠の砂時計 ○ ○ 純情のパピヨン ○ ○ ○ 帝王蟲 ○ ○ 寂滅の女御 ○ ○ 原初のマリア ○ ○ ファントムナイト ○ ○ 怨恨の塔 ○ ○ 囲ひ女の壺 ○ ○ グランドマグス ○ ○ 断罪の剣 ○ ○ 博愛のクピト ○ ○ エターナルイーグル ○ ○ 月形の翁 ○ ○ 哀のヘカトンケイル ○ ○ ネクストジェーン ○ ○ 暴走の砲台 ○ 反逆のキュプロス ○ ○ 禁欲の蛇 ○ ○ 雷鳥のパンツァー ○ ○ アケロンサーチャー ○ バスタードライブ ○ ぶりりあんとキング ○ ○ 天罰のダイス ○ ○ エルドラアニマル △ △ ○ ○ 無の巨人 ○ ネオミノタウロス ○ 出世ジュンシー ○ 無慈悲の巨兵 △ △ △ ○ 上へ
https://w.atwiki.jp/parabura/pages/96.html
パーソナリティ http //dragoncage.upper.jp/parabura/hero_list/list.cgi?id=97 mode=show 生まれつき悪魔寄生体を宿しているのを疎まれ、猫社会から弾かれてとある寺に住み着く。 その寺の和尚に内に潜む力を見抜かれ、共に暮らす傍ら、特殊にゃ修行法を教え込まれた。 その際に悪魔寄生体を「治療より精神論が有効にゃもの」と認識、化学文明に限界を感じる。 だがある日、ドミニオンが関わった事故で和尚は死亡、悪魔憑きに覚醒したゲンのみが生還。 そのとき右胸に刻まれた「Z」字の傷に、ゲンは和尚の仇討ちを誓うのだった。 それからは和尚の仇を探してさすらい、多くの悪魔憑きが集まる希園市に行き着いた。 《人形使い》で和尚の像(モアイ風)を創り出しては「殺したのはお前か?」と尋ねている。 基本けだるそうにしているが、負けず嫌いにゃど子供っぽいところもあり、存外扱いやすい。 変身後は昆虫、というよりは甲殻類を思わせる姿となる。 その他設定 地獄という言葉をよく使いたがるせいで中二病の疑いをかけられている。 モフられても動じずされるがままだが、実際のところは対応に困って固まっているだけ。 【変身】 特にギミックはなく、一声啼くと変身。 【共生武装:レリックファン&ヒートレイヴ】 レリックファンは御結山から、ヒートレイヴは希園樹海からこっそり持ち帰った。 武装起動すると、四肢の外骨格がより頑強なものとなり、それぞれに炎の渦をまとう。 【夜啼きのゲン】 誰が呼んだか知らないが、いつの間にかついていた通り名。 【人形】 和尚モアイ: 《人形使い》の能力でスタンダードに作り出すバージョン。 この人形を見せた反応で仇かどうかを試しているが、ドミニオンなら地獄送りにすることに変わりはない。 ゲンジ: 《写し身人形》の効果で自分そっくりにしたバージョン。モフられそうになっても「それはゲンジだ」でスルーが可能に。 しかし気を抜くと勝手に動いたり本体を乗っ取ろうとしたり……するのは気のせい。 一説によると、平行世界のゲンの意思が流れ込んでいるのだとかいないのだとか。 他キャラクターへの印象/感情・コメント もふってくる 円堂和子、小鳥遊空良(未遂)、南部華音、鳳ツグミ、滝川涼、天地空、天上星海、阿倍野鈴太(ゲンジ)、京極雪乃(未遂) 南城亜里沙、宮島ノエル そうでもない 風間神、瀬々良木みなも、神部健作、西村瑠璃 真田ユキムラ、玄谷慧、相模卓郎、天津命、佐山直衛、神代尚征、諏訪部霜雹、茨城未咲、石蕗啓司、、小笠絆、御鏡透徹、黄泉川電波、霧江魅虎 動物同士 氷真、レンカク、井上ガブリエル、不蓮陀、蒼空、彌也、シルバー、モモ セッション履歴 + #1~10 No.01 2010/11/12(金)「侵略!イカ息子」 GM:糸色さん 基本経験値:100 衝動経験値:60 経験値魔結晶:15 成長:Lv1【プライム】>Lv2-1【デモンデッド】 同行PC:真田ユキムラ、玄谷慧、相模卓郎、小鳥遊空良 備考:仇についてイカが何か知ってるようだったが人違いだったでゲソ! No.02 2010/12/5(日)「山の神 take4」 GM:じょーじあさん 基本経験値:100 衝動経験値:60 経験値魔結晶:27 成長:Lv2-1【デモンデッド】>Lv3-1【スペクター】 能力魔結晶:《潜伏》《刺突撃》《殺戮火器》 同行PC:円堂和子、風間神、南部華音 備考:おもちかえりされそうになった? No.03 2010/12/13(月)「消えた記者」 GM:糸色さん 基本経験値:100 衝動経験値:60 経験値魔結晶:28 成長:共生武装レリックファンを入手 能力魔結晶:《環境毒液噴射》 同行PC:瀬々良木みなも、氷真、円堂和子(2回目)、天津命 備考:《潜伏》《刺突撃》消費 No.04 2010/12/26(日)「月明かりの歌姫」 GM:蒼衣さん 基本経験値:100 衝動経験値:60 経験値魔結晶:27 成長:Lv3-1【スペクター】>Lv4-2【スティーラー】/レリックファンLv1>Lv2 能力魔結晶:《殺戮咆哮》 同行PC:佐山直衛、神代尚征、諏訪部霜雹 備考:尚征が子持ちになるのを記憶操作で手伝った/《殺戮火器》を経験値化(5点) No.05 2011/1/7(金)「輪廻の輪の外で」 GM:両生金魚さん 基本経験値:100 衝動経験値:50 経験値魔結晶:108 成長:共生武装ヒートレイヴを入手 能力魔結晶:《潜伏》《内蔵火器》《超放電》 同行PC:瀬々良木みなも(2回目)、円堂和子(3回目)、風間神(2回目)、レンカク 備考:写し身人形・ゲンジ(命名・神)がまさかの生還 ※2011/1/8(土) 更科縁(ゲノムさん)と《潜伏》←→《練体変身》をトレード No.06 2011/1/30(日)「イービルインパルス take2」 GM:灰猫さん 基本経験値:100 衝動経験値:70 経験値魔結晶:50 成長:ヒートレイヴLv1>Lv2 能力魔結晶:《肉弾貫通》《模倣能力》 同行PC:茨城未咲、鳳ツグミ、滝川涼 備考:レリックファンの《環境毒液噴射》をレッドブレイク/《模倣能力》を経験値化(10点) No.07 2011/3/2(水)「その桜が赤いのは――」 GM:よーかさん 基本経験値:100 衝動経験値:70 経験値魔結晶:55 成長:Lv4-2【スティーラー】>Lv5-2【スティンガー】 能力魔結晶:《特異軌道》 同行PC:井上ガブリエル、神部健作、不蓮陀 備考:ゲンジがガブに感化された ※2011/3/8(火) 天津命(させぼのまりさん)の《磁力重圧》と《特異軌道》をトレード No.08 2011/3/20(日)「漂流学校」 GM:蒼衣さん 基本経験値:100 衝動経験値:60 経験値魔結晶:80 成長:ヒートレイヴLv2>Lv3 能力魔結晶:《潜伏》 同行PC:神部健作(2回目)、天地空、石蕗啓司 備考:ヒートレイヴの《超放電》をレッドブレイク No.09 2011/4/26(火)「御月見山の戦い」 GM:RON_AGさん 基本経験値:100 衝動経験値:50 経験値魔結晶:66 成長:Lv5-2【スティンガー】>Lv6-2【ハートレス】 能力魔結晶:《連続行動》《燃焼液噴射》 同行PC:蒼空、天地空(2回目)、天上星海、阿倍野鈴太 備考:キリングハウルを利用したチェイスブロウに燃えた。 No.10 2011/5/27(金)-30(月)「茶番劇」 GM:糸色さん 基本経験値:100 衝動経験値:70 経験値魔結晶:75 成長:ヒートレイヴLv3>Lv4 能力魔結晶:《威力強化》《超生命》 同行PC:西村瑠璃、小笠絆、天地空(3回目) 備考:《燃焼液噴射》消費 No.11 2011/7/16(土)「希園ダム決壊まであと3時間! Take3」 GM:Zenさん 基本経験値:100 衝動経験値:50 経験値魔結晶:118 成長:Lv6-2【ハートレス】>Lv7-2【リーチャル】 能力魔結晶:《属性噴出》《潜伏》《視界破壊》 同行PC:西村瑠璃(2回目)、京極雪乃、御鏡透徹 備考:レリックファンの《練体変身》をレッドブレイク No.12 2011/9/22(木)「パラダイス・ロスト Take2」 GM:糸色さん 基本経験値:100 衝動経験値:70 経験値魔結晶:100 能力魔結晶:《連続行動》《伸張》 同行PC:黄泉川電波、彌也、シルバー 備考:《潜伏》消費 ※2011/9/28 久城和真(ド!カピンさん)の《潜伏》と《肉弾貫通》をトレード No.13 2011/12/23(金)「めておいんぱくと!せかんどすとらいく!」 GM:RON_AGさん 基本経験値:100 衝動経験値:60 経験値魔結晶:140 能力魔結晶:《連続行動》 同行PC:南城亜里沙、宮島ノエル、霧江美虎、モモ 備考:《超生命》《視覚破壊》を経験値化(計105点) No.14 2012/5/12(土)「お嬢様を護衛するだけのカンタンなお仕事」 GM:izmさん 基本経験値:100 衝動経験値:50 経験値魔結晶:220 成長:Lv7-2>Lv8-3、ウォーコイトをサブ共生・Lv1>Lv2-1>Lv3-1>Lv4-1>Lv5-1 能力魔結晶:《刺突撃》《内蔵火器》《威力強化》《不死身》 同行PC:木竜慎二、京極雪乃、九弦院舞琴 備考:《連続行動》消費、暴走/《属性噴出》《不死身》を経験値化(計150点)
https://w.atwiki.jp/pmvision/pages/1686.html
《再迷「幻想郷の黄泉還り」》 No.585 Spell <Special Collection Vol.4> NODE(3)/COST(3) 術者:西行寺 幽々子 効果範囲:プレイヤー、手札、デッキ、冥界に及ぶ効果 発動期間:瞬間 【連結(亡郷「亡我郷 -宿罪-」+「古の記憶」)】 〔あなたと相手プレイヤーの冥界にあるキャラクターカード、それぞれ1枚まで〕を選び、あなたの場にスリープ状態で出す。その後、〔冥界にあるキャラクターカード全て〕を本来のプレイヤーのデッキに戻し、シャッフルする。〔全てのプレイヤー〕は、この効果で自分のデッキに戻したカード1枚につきライフポイントを3得る。 地表に冥界の門を開き、失われた者を悉く蘇らせる。 Illustration:ノザクマ コメント 連結を持つスペルカード。 自分と相手の冥界からキャラクター1枚をリアニメイトしつつ冥界のキャラクターを一掃し、さらにライフポイントを回復させる効果をもつ。 対象は「1枚まで」かつ「選び」なので、冥界にキャラクターカードがない場合でもプレイは可能で、干渉で冥界のキャラクターカードがなくなったとしても、効果の解決に失敗したりはしない。 3コストと比較的重いため、基本的には術者を据えて、死符「ギャストリドリーム」で破棄したキャラクターをこのカードで奪うといった使い方がメインになる。 また、その重いコストを逆に利用して序盤にキャラクターをノードに伏せておき、そこからコストを支払うことで、ライフゲインを9点増やすこともできる。 回復効果は全てのプレイヤーが対象となるが、無縁塚や連結元カードである古の記憶で相手の冥界にあるキャラクターカードの枚数を調節すれば、自分だけ恩恵を受けることは難しくない。 またうまくいけば自分の場に大型キャラが2体増えることになるため、多少の回復なら数ターンで削り直すことも容易い。 なによりデッキ構築の段階でキャラクターを多めに投入しておけば、相手より多くのライフゲインを得ることも容易なため、押し込まれた状況をこの一枚により何とかできてしまうことも多い。残り一桁だったライフがいきなり初期値以上に戻るなどという芸当も可能である。 状況によっては死霊の復活とすさまじいシナジーを形成する。狙ってみる価値はあるだろう。 このカードのライバルとして結界地縛霊というコンボが存在する。あちらは呼び出せる枚数、即効性、ライフゲインの差とこのカード以上のアドバンテージを獲得しやすい。このカードを採用するならば、冥界のキャラクターをデッキに戻す効果に着目して採用したい。 収録 Special Collection Vol.4 Power Of Union 関連 「西行寺 幽々子」 西行寺 幽々子/1弾 符ノ壱“西行寺 幽々子”/3弾 符ノ弐“西行寺 幽々子”/3弾 西行寺 幽々子/5弾 西行寺 幽々子/10弾 西行寺 幽々子/14弾 西行寺 幽々子/20弾 場で「西行寺 幽々子」として扱われるカード 幽冥の住人チーム(連結) 黄泉の剣聖チーム(連結) 暗黒の深淵チーム(連結) 亡郷「亡我郷 -宿罪-」 古の記憶
https://w.atwiki.jp/for_orpheus/pages/269.html
考えねばならない事が無数にある。 そんな状況でも焦る事なく頭を回せるのは強者の特権だ。 結局の所聖杯戦争とは殺し合いであり武力の比べ合いである。 頼みにする戦力が脆弱ならその分焦燥にリソースを食われてしまうのは避けられない。 その点、オルフェ・ラム・タオと言う葬者には全くそちらの心配は要らなかった。 彼が保有する戦力は全ての葬者を引っ包めても指折りの猛獣だ。 少女程の矮躯でモビルスーツ並かそれ以上の力を発揮出来る正真正銘の怪物。 現状、オルフェの脳裏に彼女が膝を屈する未来は過ぎった試しすらない。 黒き騎士王。 反転せし理想の王。 一言――暴力の化身。 彼女の力に対する信用はオルフェの中で、件の"竜"達の台頭を知った今でも絶対だった。 あれは戦術兵器のような物だ。 適切に運用し、適切な局面に投げ込み続けるだけで自然と己の敵はその頭数を減らしていく。 間違いなく考えられる限り最善、そして敵からすれば最悪に近いワイルドカード。 だがだからこそ、足元を掬われない為の知略には余念を排しておく必要がある。 そう思いながらオルフェは生活の拠点としている洋邸の一室で紅茶を啜り。 予め調達しておいた資料の束に視線を落とし眦を細めた。 「宇宙への適応を見越した身体拡張、あらゆる既存疾患や障害に対する解決手段として期待される技術…GUND、か」 ベネリットグループなる企業が開発を推し進める新進の医療技術。 ベネリット自体覚えのない名であったが、この冥界では多種多様な場面でその名を見掛ける。 中でも目を引くのが『GUND技術』なる耳慣れない単語であった。 開発途上という扱いになってはいるものの鵜呑みにしていいかは怪しいだろう。 技術の真偽と如何については然程重要視する気もなかったが、現状異物感が際立って見えるのは否めない。 社会活動を笠に着て怪しく蠢く手合いが一枚噛んでいる可能性は高いとオルフェは睨んでいた。 だが厄介なのは今のオルフェには何の後ろ盾も無い事。 ファウンデーション公国宰相という元の身分を一部でも引き継げていれば大手を振って例の企業を漁る事も出来たろうが、単なる野良犬の一匹と化して久しい今ではそれも難しい。 “私の疑いが正しければ既にベネリットは諜報と暗謀の巣窟と化している筈。 単身でアプローチするのは、やはり今の私では難しいか…ままならんな” 資金力ならばそれなりの物を持っている自信はある。 だが狡知に長けた狐というのはいつの世も独りではない物だ。 アコードであるオルフェにとって心理の駆け引きは意味を成さない。 然し立場の無い今では猪口才な権力と数の多さが立派な障害になる。 それこそ、冗談でもなく騎士王の投下による殲滅が選択肢の上位に上がってくる程度には厄介だった。 何たる体たらく。 何たる落魄れぶりだと辟易を抱かずには居られない。 今も変わらずこの手に全てが在ったなら、事はすぐにでも完了しただろうに。 “疑いがあるという程度の段階で戦力投下に出るのはリスクが勝る。現状ではあちらがボロを出すまで静観せざるを得ないな” この歯痒さは未だに慣れない物がある。 小さく嘆息しつつオルフェは資料から視線を外した。 すると視界に入って来たのは黒い影。 騎士王が彼方の方を見つめ佇んでいる。 黄昏れているのか、らしくもない―― そう思った所で怜悧な声が朝の静寂を揺らした。 「揺れているな」 「…何?」 「竜共が突いた藪からまんまと蛇が飛び出して来たか? いや、それとも…この局面まで生き残る連中だ。 小兵なりに直感したか、死が近付いてきた感覚を」 空気が逆鱗を撫でるが如く。 冥奥にて息を奏でるもう一匹の竜は、死界に轟く戦禍の波を感じ取っていた。 既に戦は佳境に入っている。 怪物三種の乱痴気騒ぎはその事を告げる鐘の音だった。 そして騎士の王たるこれがそれを見逃す筈もない。 昂るように、猛るように、騎士王は静かに口角を緩める。 巷に雨の降る如く、世界中の死が蠢き始めた。 であれば当然。 これぞ狩り時、機は満ちた。 「出るぞマスター。王の威光と言う物を示す時だ」 「近いのか?」 「少なくとも空振りには終わるまい。虎にしろ、蛇にしろ…鼠にしろ。この剣の錆に出来る何れかには当たるだろう」 「…解った。その勘を信じよう」 斯くして騎士王は出陣する。 隣に立つのはもう一人の王。 遠未来の或る星にて立ち、そして敗れた哀れな人間。 凡てを失い、然しそれでも尚天を見上げる被造物。 冥界に嵐が吹くのなら。 彼らはそれをも飲み込み猛る津波となる。 騎士の名はアルトリア・ペンドラゴン。 堕落せし理想の王、そして遍く運命を断首する聖剣の卑王。 冥府への導き手に仕える、死で死を戮する――黒騎士(ブラックナイト)である。 ◆ ◆ ◆ 「春だねぇ」 「そうれふね」 四月にもなると暖かい日も増えてくる。 朝晩は肌寒さが残るが、日が照り始めてからは肌に汗が滲む事も多い。 かと言って気温は高すぎず、所謂過ごしやすい陽気という奴だ。 アイスキャンデーの季節にはまだ早いが、釈迦とその葬者プラナはソーダ味のキャンデーを咥えながらその陽気の中を歩いていた。 若々しい華やかさと熟成された男らしさを併せ持った顔立ち。 その上自分の正体を隠そうとする事もない堂々たる歩みと振る舞い。 そんなだから釈迦は町でも相応に名の知れた有名人と化しつつあった。 道を歩けば老人は手を合わせるし、子供は親しげに話し掛けて来る。 まさしく宗教じみた光景だが、誰もそれを疑問とは思わない。 有名人だからと言って写真を撮るでもなく、日常の一風景として愛し有難がる。 宗教と聞いて思い浮かべる怪しさや胡散臭さは何処にもない、安らぎに溢れた一シーンだ。 「…それにしても、いつまでもこんな事をしていていいのでしょうか」 「んー? なんで?」 「私はあなたと共に歩むと決めた身です。勿論不満等ある訳ではありませんが… こうして姿を晒し続けていては必然、良からぬ者に見付かってしまう可能性もあるのでは?」 「だからって隠れ潜んでコソコソってのは陰気臭ぇだろ。やっぱり新しい土地に来たらまずは旅しないとね」 プラナの懸念は尤もである。 実際、見る者が見ればすぐに英霊連れの葬者だと解ってしまうに違いない。 只釈迦はさしたる問題と捉えた風でもなく堂々足を進めるのみだ。 そして困った事に、その無責任とも言える言葉に自然と説得力が宿っているのがこの男の罪な所。 偉そうな説法は垂れないし荘厳な奇跡を魅せて人心を掴む訳でもない。 自然体。彼はそれ一つを武器に揺らぐ事のない正道を歩んでいる。 この死に満ちた虚ろの町に蓮の花を咲かし、菩提樹の爽香をそよ風に乗せ漂わせている。 神話では有り得ない。 人だから成し得る光景。 人の英雄。 人の救世主。 狂おしい程の我儘男。 故に釈迦。 「そういう物なんでしょうか」 「そういう物なのさ。だから楽しいし、実にもなるんだ」 王の座を蹴って蓮座に座ったシャカ族の王子は舞台が何処になろうと変わらない。 時々おかしくなる癖のあったあの"先生"とさえかけ離れた奔放は時にプラナの常識を破壊する。 宇宙を背景にした猫みたいな顔になった事もこの一月で数知れず。 それでも何故だか辟易しない。 不思議と気分は常に落ち着いて、深緑の森の中でブランコを漕いでいるような心地に包まれているから実に不思議だった。 シッテムの箱のOSに過ぎない自分にそんな経験などある訳もないにも関わらず、である。 世界が広がる。 新しく知るまでもなく満ちていた筈の知識が、白黒のデータでしかなかったそれが色鮮やかに染め上げられていくのを自分でも感じる。 この果てに待つ到達点が彼の言う所の"悟り"なのだろうか。 だとしたらそれは――其処は。 一体どのような色と匂いに溢れているのだろう。 「プーちゃんも良い顔になって来たね」 「微妙。自分では余り自覚がありません。いつもと違う表情を浮かべた記憶も特には」 「別によく笑う奴が偉い訳じゃねぇ。よく泣く奴でも、キミみたいに仏頂面な奴でも良いのさ。 それでもやっぱり"良い顔"ってのは見りゃ解る。 真っ直ぐ全力で生きてる奴の顔ってのは、それがどんなツラでも良いもんだ」 「…ふむふむ。一応メモに残しておきます」 「プーちゃんって真面目過ぎて一周回って変な所あるよな」 「心外。これは私なりに悟りの道程に向き合った結果であって…」 牧歌的。 まさにそんな光景だったが。 不意にその足が止まる。 彼ら二人が全く同時に"それ"を視認したからだった。 「…へえ」 黒い女が立っていた。 頭髪は色素の薄い金色。 肌も白磁と呼んでいい白さで黒点の一つも見受けられない。 唯一纏っている当代風の服装には黒色が見て取れたが、無論そういう話をしているのではない。 逆にこれ程美しく、儚ささえ感じさせる外見要素を押さえているにも関わらず。 その女は吸い込まれそうなまでの黒を湛えていた。 墨のように黒々とした闇の色彩を釈迦は美しき立ち姿に見た。 確かに美しい。 だがそれ以上に、恐ろしい。 肌がピリ付いて陽気を吹き飛ばす寒気が骨まで届く。 釈迦は口からアイスの棒を抜き、口内のソーダ味を飲み込んで笑みを浮かべた。 「相当出来んね、キミ」 「意外に俗だな、救世主」 プラナはその隣で身を固くする。 釈迦をして仏頂面と称する彼女の表情は、今明確な強張りを見せていた。 純然な生命であるかどうかなんて関係はない。 僅かでも思考する能力があれば。 感情に類する機能を持つならば。 この女を前にして危機を感じ取れない筈はないと、少女は理屈抜きにそう理解する。 それ程までに圧倒的な存在感。 呼吸の一つ、仕草の一つ。 痩身で為せる全ての行動で他者を蹂躙する肉食の獣。 それが、プラナの観測した騎士の姿。在り様。 ――反転せし騎士王が、静かに悟りの道を阻んでいた。 ◆ ◆ ◆ オルフェ・ラム・タオの心にあるのは呆れだった。 アコードの力に頼るまでもなく獲物と解る堂々たる歩み。 だがそれは、どうやら自分達のように敵を炙り出す為でさえない。 あらゆる理屈に合わず、一言で言うなら愚かとしか言い様がなかった。 “此処まで"なっていない"連中でも、この段階まで生き残って来られたのか” 旅をする。 日常を生きる。 悟りを目指す。 理解不能の指針(イメージ)が白髪の少女を通じて自分の脳内へ流れ込んで来る。 一顧だにする価値もない思想だった。 故にオルフェは早々に思考を打ち切る。 意味がない、と判断したからだ。 少女の思考を聴くのを止め、視線を騎士の背中へと移す。 「此処は人が多い。やるならもう少し開けた所でだ」 「豪胆だな。この私を前に怯みもしないか」 「いーや? そうでもないよ。ちょっと楽しみなのは否定しないけど」 「…良いだろう。私としても久々に愉快な戦になりそうだ」 いや。 正確にはその向こうに佇む、額に黒子のある男を見ていた。 オルフェの時代に彼の逸話は残されていない。 だがこの冥界で生きていれば、嫌でも彼の遺した痕跡にぶつかった。 即ち仏教。 誰もが日常的に、深く思いを馳せる事もなく仏の教義に親しんでいる。 それがこの現代日本で、故にオルフェも必然として彼の者の名に行き当たっていた。 即ち仏陀。 その開祖。 王になる道を示されながら、それに背を向けた愚かな男。 ゴータマ・シッダールタ――そして一度彼の名を知ってしまえば、最早誰に言われるまでもなく目の前の男の真名に気付く事が出来た。 そう。 騎士に示されるのを待たずして、オルフェ・ラム・タオも釈迦を釈迦と認識したのだ。 “………なんだ、あの男は?” オルフェは仏の教えに共感しない。 その教えと主張は無責任だ。 大らかと言えば聞こえはいいが実情は尤もらしい事を言って煙に巻き、責任を投げ捨てているだけだと解釈した。 絵空に挑む気概もなく、悟り等という抽象的な自己完結で悦に浸る呆けた宗教。 それは正しい導きではない。 認め難く不完全で、見るに堪えず醜悪だ。 そう思っていたし今もその認識は変わらない。 だと言うのに。 一目見た瞬間、脳ではなく魂で理解させられた。 嗚呼、まさしくあれこそが釈迦であるのだと。 “何故笑う。この黒騎士を前にして、尚” 此処までの戦いにおいて。 騎士王の異霊たる彼女に恐れを成さなかった者は一人も居なかった。 事実彼の隣に立つ白髪の娘の緊張は力に頼らずとも見て取れる。 だがあの男は真実、全く脅えや萎縮の感情を抱いていない。 単なるペテン師の腹芸では黒王の魂にさえ響かす威圧を誤魔化す等不可能だ。 セイバーの強さはオルフェが誰より知っている。 モビルスーツに搭乗し、命を懸けた闘争に臨んだ経験の有る己でさえ思う。 この女の強さは異常だと。 とてもではないがこの武力に正面切って抗える者が存在するとは思えない程に、彼女は強い。 ではあの笑みは、揺るがぬ佇まいは何か。 よもや本当に黒き騎士王を相手取り、勝利出来る等と信じているのか――。 優れたる新人類(アコード)は心に精通する。 意思を伝え、操り、それらの大前提として読み取るのだ。 それは決して人間相手に限った話ではない。 かつて人間であった存在にも当然の理屈として適用出来る。 故にオルフェは此処で、この不可解に得体を与える事を試みた。 意識を覚者へと集中させる。 単なる虚仮威しならば嗤ってやろうと、持ち前の傲慢さを存分に発揮して。 …或いは本能の部分から湧き上がる畏れの感情をそれで掻き消すように。 オルフェ・ラム・タオは、目覚めた者の感情を受信し、そして―― ――次の瞬間、彼は蓮の花が咲き誇る見果てぬ大地に立っていた。 川のせせらぎ、水鳥の囀り。 ひらひらと舞い飛ぶ蝶々、木の実を齧る栗鼠。 空は塩湖を思わせる透き通った青を一面に湛え。 吹く風はあらゆる汚濁を浄化する清らかで満ちている。 この広大の中に一人残されているのに微塵の孤独もない。 踏みしめた大地から伝わる草木と土の感触さえもが優しい。 空から照らす日光は暖かいのに暑くない。 遠い彼方の方にまでこの優しさが果てしなく、余す所なく広がっているのが直感で理解出来る。 視力の領分を超えた認識能力は比喩でなく千里にまで届き。 自己という一が矮小な一粒に過ぎず、然し無限の価値を有している事を知らせる。 一が全と調和を果たし世界が個人と完全に融和している。 脳内に雪崩込む情報の全てに悪意がない。 只管に優しく、只管に満たされた世界。 一面の充実と一面の潔白。 苦患はなく、呵責もない。 そんな情報が失墜した王の脳へ清流として流れ入る。 そしてそれが、永劫に完結しない。 終わらないのだ。 この楽土(イメージ)には果てがない。 無限と称するに相応しい景色が脳のニューロンを浸水させて且つ決して溺死させない。 忘我の境地とはまさにこの事であった。 我を忘れ、煩悩から解き放たれ、永久に世界へ親しむ歩みの極致。 これでさえ片鱗でしかない到達の景色を、オルフェ・ラム・タオは見て。聴いて。触れて… 「見るな」 「…ッ!」 繋がってしまった無限を黒の一閃が断ち切った。 途端に意識が現実へと帰還する。 最早あの楽土と自然は何処にもなく。 凡てを満たす充足も感じられない。 目前に広がるのは見知った苦患の都市。 同時にオルフェが覚えたのは吐き気にも似た絶大なまでの悪感だった。 「それは王(おまえ)には必要のない夢想だ。 目を凝らさず、耳を貸すな。只敵として処断しろ」 これは駄目だ。 此奴は駄目だ。 生かすな、存在する事実を赦すなと全神経が告げている。 あの光景は屈辱だった。 耐え難いまでに意義を踏み荒らす体験だった。 何が許し難いか。 騎士の声がイメージの受信を断ち切るまで、己は一度も憤懣を抱けなかった事実だ。 あの瞬間、確かに己は満たされていた。 凡てが在る境地という物を幸福として享受してしまっていた。 それが駄目なのだ。 それだけは認められないのだ。 今すぐにでも救世主の首を削いで頭蓋を踏み砕かなければならぬとオルフェに強くそう認識させるのだ。 「…セイバー。あの男を必ず討て」 「貴様に言われるまでもない」 「理解している。その上で、命じている」 「……」 デスティニープラン。 遺伝子を至上とし、人類を管理する事で救済するという思想。 その時代、既に社会は行き詰まっていた。 終わらぬ戦争、尽きない流血。 それを終わらせる運命が必要だった。 その為にオルフェが、彼らが生み出された。 だから彼は一度の挫折で腐る事なく歩み続けているのだ。 人類未踏の平和を成し遂げ生まれた意味を果たすその為に。 その為に、今も戦い続けている。 だが、いやだからこそ。 オルフェ・ラム・タオは釈迦の存在を容認出来ない。 「殺せ。私の、王としての言葉だ」 「先刻まで呆けていた要石が大きく出たな。だが」 無限より抜けて。 楽土から醒めて。 嫌悪が去来するよりも早く、オルフェは思ってしまった。 理解してしまったのだ。 形はどうあれ世界を救いに導く為に戦う者。 その使命に誇り以上の心血を注いで向かい合う者。 そんな彼だから解った。 解らされてしまった、あの瞬間。 思って、しまった。 ――この男ならば或いは本当に、世界を―― 「良かろう。貴様の訴えを聞いてやる」 …こうして戦いがまた一つ幕を開ける。 葬者の行く末を賭けた英霊と英霊の神域闘争(ラグナロク)。 蹂躙するは今は遥か円卓の"騎士王"アルトリア・ペンドラゴン。 悟り守るは人類史上最強のドラ息子、釈迦。 終末の番人が吹くギャラルホルンの音はなくとも。 この冥界では――世界でなく己の存亡の為に、最強どもが殺し合う。 ◆ ◆ ◆ 場所を変えた。 釈迦の提案を呑んだのは只の善意ではない。 反転したアルトリアは名君ならぬ暴君。 誇りは解する、風情も解する。 だが則るとは限らない。 その彼女が態々則ってやった理由は一つ。 町中で何も顧みず打ち合えば横槍が入る可能性を否定出来ない。 そんなリスクを抱えた上で相手取るには、この覚者は聊か以上に重たい相手だと踏んだ。 気位高き暴君がそう判断した事実の重さ。 それがオルフェには解る。 だが同時に釈迦もまた、目前に立つ美しき騎士の姿を見てこう思っていた。 “ヤベーな。此奴オレより強くねぇか?” 釈迦は人類と神々の最終闘争に列席した男だ。 それも優位に立つ筈の神側から招聘を受けた。 最終的に彼自ら人類側に鞍替えこそしたものの、神さえ彼を欲したのだ。 そして彼は最終闘争の果て、悪の凝集体たる魔王を討ち果たしている。 つまり人類史の中でも有数の強者。 人類最強を豪語しても物言いが付かない程の猛者なのである。 その彼が、謙遜抜きにこう思った。 即ちそれは、この騎士王があの最終闘争を基準に考えた場合でも変わらず怪物を名乗れるだけの使い手という事を意味しており… 「もう注文は無いな。あっても聞かんが」 「良いよ、あんがとな合わせてくれて」 「そうか」 アルトリアの靴底が砂を踏む。 地を撫でるように動き、細身の体躯が揺らめく。 静寂は刹那。 やはりそれを最初に破ったのは暴虐の騎士王だった。 「では始めるとしよう。退屈だけはさせるなよ、蓮座の主」 刹那の後。 須臾にして騎士が颶風と化す。 釈迦の懐に入るまで一秒と掛からない。 振るわれる聖剣はその実一撃にして霊核まで断ち切る凶剣。 逆袈裟に放たれた剣閃は初撃でありながら既に釈迦の命脈へ迫っている。 が、金属音と共に聖剣の行方は阻まれた。 釈迦が抜き放った棍状の神器。 神秘でこそ妖精が鍛えた聖剣に敵わねど、神の名に偽りない強度を持つそれが暴虐の一刀を空振りに終わらせたのだ。 「…がっつくねぇ。よく食べる女の子は見てて愉快だけど」 「おまえのように粗食ではなくてな。敵であれ、飯であれ、余さず喰らう質だ」 神器の銘は『六道棍』。 その名の通り六道を体現する釈迦の業物。 棍の形が組み変わる。 棍から大斧(ハルバード)へと。 壱之道・天道如意輪観音『十二天斧(ローカパーラ)』。 聖剣と打ち合うに適した形への変化を了すると同時、次は釈迦が仕掛ける。 「オレも実は結構食うよ。特に甘い駄菓子にゃ目がなくてね」 「…!」 騎士王の眦が動く。 速い。 だがそれ以上に動きの精緻さが異常だった。 的確に穿たれるウィークポイント。 咄嗟に受け止める事には成功したがたたらを踏むのは避けられない。 其処にすぐさま振るわれる連撃。 単なる宗教家の枠には決して収まらない武芸の冴え。 唯我独尊の在り方を示すような釈迦の仕掛けは掴み所のない気性とは裏腹に酷く鋭い。 返しに移りたくても単純な詰将棋のように迷いなく打たれる次の手がそれを封じて来る。 騎士王アルトリア、この冥界に於いて初めての苦戦であった。 少なくとも力任せに踏み躙って平らげられる手合いではない。 予想通りに唯我独尊は唯我最強――アルトリアの口角が吊り上がる。 よって、此処でギアが上がる。 赤黒の魔力を纏わせて切り上げた。 力任せに釈迦の連撃を崩しに掛かったのだ。 そしてその判断は功を奏する。 流麗ですらあった釈迦の手が僅かだが途切れた。 この一瞬を騎士王は見逃さず好機に変える。 得物ごと粉砕する勢いでの一閃を大上段から振り落とした。 王の処断の象徴、ギロチンを思わす斬撃に釈迦の肌を汗が伝う。 止めるだけで代償に骨が軋む程の一撃。 私が上でおまえは下だと突き付けるような一振りに、釈迦は地を蹴って後方へ逃れるのを余儀なくされた。 「ッ痛て…馬鹿力過ぎだろッ」 「そう思うなら、それは貴様が弱いのだ」 一度でも主導権を渡せば忽ち抑えが利かなくなる。 騎士王の剣技は極限まで洗練された実戦由来の物だ。 即ち、その太刀筋には一切の遊びがない。 その上で霊基反転による凶暴化と純粋な基本性能の向上。 これが手伝って現在のアルトリアは正しく超人と呼ぶのに相応しき領域にある。 禍々しい魔力光に煌く剣筋は神器さえ軋ませる破壊の極み。 されど、それでも尚釈迦は巧かった。 捌けているのである。 アルトリアの刃を受け止めながらも致命傷を避けて凌ぎ続ける様はまさに神業。 騎士王の剣技は基本に忠実な剛の剣だ。 故に読み易くはあるのだが、かと言ってそれをこの実戦で体現できる者が一体どれだけいると言うのか。 凡そ尋常ならざる領域にある技量。 だがそれも長くは続かない。 技を食い潰す圧倒的な力が戦線を押し上げ続け、聖剣の連撃は速度を更に増す。 一呼吸で振るわれる斬撃が二撃三撃と増え始める。 これに合わせてセンスに任せた応戦という前提が崩れ始め、シーソーゲームの体が崩壊していく。 「チッ…!」 釈迦の舌打ち。 アルトリアは既に釈迦の土俵を凌駕している。 無理繰りに食い下がる事は出来ても、この暴君を相手に腰を据えて戦う事がどれ程危険かは釈迦とて重々理解している。 リスク承知で攻めに転じるか。 決断と共に六道棍が、アルトリアの暴政に倣うようにその姿を変えた。 次は金棒だ。地獄の鬼が振るうそれが如く、刺々しく無骨な極太のフォルムが顕現する。 弐之道・畜生道馬頭観音『正覚涅槃棒(ニルヴァーナ)』。 これだけの速さでの形態変化に成るとは釈迦自身予想外だったが、六道棍の利点とは相手・状況に応じて最適な形を取り応戦出来る点にある。 そして実際、正覚涅槃棒への変形は押し切られ掛けていた戦線に一石を投じる結果を生み出した。 「器用だな。然し聊か見窄らしいぞ、救世主の名が泣いている」 脇腹を捉える筈だった剣先を金棒の棘で弾く。 其処から懐に飛び込んでの剛撃一閃、アルトリアの顎を狙って振るわれる涅槃棒。 アルトリアはこれを半身後ろに下げる事で回避。 同時に、振り終えた釈迦の首を刎ねるべく真横に剣を振るった。 だが。 「ッ…!?」 次に驚愕するのはアルトリアの方だった。 剣を振るうと同時、喉笛に衝撃を受けたのだ。 釈迦の肘鉄が神速で振るわれる一太刀を掻い潜り自身に触れた。 そう認識した時、既に釈迦の姿は断頭台と化した聖剣の軌道内には居ない。 より身を低くし、アルトリアの懐の中というごく狭い空間の中で生存圏を確立していた。 「そういうキミは随分せっかちだね。折角遊ぶんだ、もっと対話(オハナシ)してこうぜ?」 「戯言を…!」 その上で正覚涅槃棒を曲芸のように激しく振るう。 元々肉薄からの接近戦を想定された形態である涅槃棒に釈迦の技量が加わる事で、金棒という無骨無粋な得物から繰り出されるとは思えない速度と質が実現される。 針の穴に糸を通すような鋭さ。 そしてアルトリアのお株を奪うようなパワフルな剛撃。 これが外す余地のない超至近の間合いから放たれ続けるのだ。 だがアルトリアとて唯ではやられない。 釈迦が振るう得物が武器としての性能は兎も角、その形状故に小回りに劣る事は見て解る。 技巧の高さである程度は誤魔化せているが、ならば力に任せた理不尽で押し潰すまで。 「手緩いぞ、覚者!」 逆鱗の魔力放出。 肉体そのものを起点に魔力を猛らせる無体が技の出番を強制的に終わらせる。 有り余る程の魔力に物を言わせたパワーファイトの極致。 近距離で炸裂した騎士王の魔力が釈迦を強引に跳ね飛ばした。 足を地に杭の如く突き立ててどうにか踏み止まったようだが、王の処断に変わりはない。 不遜にも王へ一撃加えた罪状への判決は死以外になく。 放出の勢いを色濃く残した斬閃が救世主を両断せんとする。 …いや、正確には"した"。 「どっちがだよ、じゃじゃ馬」 「ご、ッ――…!?」 釈迦の選択は回避。 動作は最小限に身を傾けるだけに止めつつ、騎士王の裂帛を完全な無傷で凌ぎ切る。 考えられる限り最も完璧な形での回避。 あろうことかそれとほぼ全く同時に、涅槃棒を迅雷の如く突き出した。 騎士甲冑の胸元に直撃した仏罰の一撃がアルトリアに唾液を吐き出させる。 それだけには終わらない。 次いで彼女へ降り注いだのは、涅槃の静寂とは全く相反した打擲の嵐だった。 釈迦が攻める。 攻め続ける。 それは極地にて吹く風。 煩悩を罰する嵐に他ならぬ。 目視すら難しい速度で降り注ぐ打撃、その中に一発たりとて生易しい物はない。 そして何より恐ろしいのが、百を優に超えるだろう数任せの連撃、その全てが有り得ない程の冴えを宿している事だ。 己が想定していた"流れ"を徹底的に始動の段階で潰して来る。 こと戦闘という事柄に於ける一つの理想論。 されども誰もがすぐに不可能と気付き諦める極論の戦闘論理。 無論アルトリアでさえ例外ではない。 それを釈迦は成し遂げている。 もしも敵手が誉れも高き騎士王でさえ無かったなら、何一つ面白味等なく戦端は終結していた事だろう。 「…成程。これが釈迦(きさま)か」 黒王の口から苦笑が漏れる。 漸く彼我の役者の違いを理解したのか。 自分が挑んだモノの大きさを理解し、抗うのを諦める境地に至ったのか。 否だ。これは断じて辟易を意味する貌ではない。 喩えるならばそれは、獲物のねぐらを見付けた獅子のような。 諦めや屈服とは真反対の、目前の事象を食い殺すと決めた肉食の笑み。 その証拠に釈迦の眉間に皺が寄る。 恐らく、戦いを観戦している二人の葬者には騎士王の劣勢としか見えないこの状況で。 菩提樹の悟りに至り救世主の冠を戴きながら、自らの自業自得でそれを剥奪された"人間"だけが――これから始まる悪夢を予見していた。 「――良い目を、持っているな?」 ゾ、と。 釈迦の背筋に悪寒が走る。 アルトリアの不敵な言葉に気圧されたのではない。 釈迦の視界に映る、今この瞬間には存在しない"アルトリア・ペンドラゴン"。 正確に言うならば今から五秒先の未来に於ける彼女と、目が合ったからだ。 “…おい。マジで言ってんの……!?” …釈迦の武芸は圧倒的なセンスと経験に裏打ちされた天衣無縫の其れである。 だがそれだけではない。 彼はその培って来た物に加えてもう一つカードを隠し持っている。 正覚阿頼耶識。 技術の延長線上に存在する"予測"ではなく、正真正銘の未来視能力。 それが釈迦の超人を通り越して超常的なまでの詰めを支えるトリックだった。 この世に於いてあらゆる存在は、肉体ではなく意思に縛られている。 だから本人は咄嗟に行動しているつもりでも、その実それよりも先にまず意思が動いているのだ。 釈迦はこれを"ゆらぎ"と表現する。 肉体よりも意思が先に動き。 そして意思の動きは、魂の"ゆらぎ"へ繋がる。 釈迦が見ているのはこれだ。 この"ゆらぎ"を、極致へ至った覚者は情報として視認する事が出来る。 肉体が動く段階に至る前に相手の行動を把握出来るのだから、まさしくそれは未来視と呼ぶに相応しい芸当だ。 たとえ誉れも高き騎士の王だろうが魂を不動のままに肉体を動かす事は敵わない。 故に釈迦は彼女に対し、いつも通りに圧倒的な優位を抱えるに至っていた。 未来視で全ての選択肢を先んじて潰しながら確実に削り切る無体なまでの正面突破。 ――そう、今この瞬間までは。 もとい、五秒先の未来までは。 手品の種は暴かれた。 突き付ける宣告と共に騎士王の動きが激変する。 より荒々しく、より力任せ。 一見すると精彩を欠いてさえ見えるが、彼女は只の力自慢ではない。 その身に宿す力は平時と変わらず、いや平時と比べて尚上を行く災害そのもの。 その次元にもなれば只雑に振り翳すだけでも脅威となる。 それどころか釈迦のように理屈ありきで戦う者にとっては定石に嵌っている状態よりも格段に厄介だ。 「ッ、く…! ぐ、ゥ……!?」 "ゆらぎ"の段階で未来と目が合う。 一体どれ程鋭敏な感覚を以って戦いに没頭していればこうなるのか。 この最高の意趣返しが可能なのか。 釈迦をして解らない。 故に驚嘆する。 最終闘争にて戦ったあの魔王さえ決してこれ程ではなかった。 瞬間に殺到する剣戟。 威力を落とす事なく然し速度のギアが桁外れに上がっている。 アルトリアの感覚はあくまで直感の域を出ない。 予知の制度では正覚阿頼耶識に数歩及ばず、よって釈迦と同じ芸当を演じる事は不可能。 だがそれでも極限の技巧と力さえあれば――意趣返しの猿真似なら出来る。 「どうした。笑みが引き攣っているぞ」 笑みの種別が逆転する。 釈迦は戦慄を蓄えて。 騎士王は嘲笑を湛える。 まさに暴嵐そのものの剣雨を凌げる時点でも十二分に破格だったが、これは明らかに彼の対処出来るキャパシティを超えていた。 旅路の中で鍛え抜かれた肉体から血風が噴き出す。 一つ一つは小さくとも積み重なれば立派な不覚になる。 偉大なる仏陀の体から鮮血が散る光景はそれだけで酷く悲劇的な絵だった。 一つの神話、信仰の凌辱。 黒き王の剣は蓮の楽土さえ意のままに穢し虐殺する。 「語るに落ちるか? ゴータマ・シッダールタ」 「…言ってくれるね。顔に見合わず意外と毒舌じゃんか。ギャップ萌えって奴?」 正覚阿頼耶識はあくまで未来を垣間見るだけの力。 それにどう対処するかは釈迦の選択と力量次第でしかない。 未来が解っていても、それが彼の範疇を超える光景であれば為す術はないのだ。 その弱点をアルトリアは痛烈なまでに指摘していた。 基礎の攻撃力が破格過ぎて、どう来るか解っていても見えた未来へ切り込めない。 メスを入れる余地がない――故に取れる選択は最早一つだった。 正覚涅槃棒を渾身の力で足元に叩き付け、衝撃を利用して至近の間合いから離脱する。 釈迦は武芸者だが戦士ではない。 よってつまらない拘りに縛られる事もない。 自ら仕掛けた勝負から逃げようが生きていればいい。 それを屈辱と思わない思考の柔軟さもまた、彼という英霊の強さを支える一つなのだったが…然し。 「逃がさん」 アルトリアは即座に猛追する。 悪竜の咆哮宛らに唸りをあげる凶剣。 一振りで大地を抉り空を裂く騎士王の斬撃が逃げる釈迦を追い立てる。 体勢を立て直す暇など与えない、戦場は常に強者の都合で回る物だ。 数から質へ。 仕切り直しに合わせて剣の真我(いろ)が切り換わる。 だが其処に絶対的な破壊が伴う事だけは不変だった。 猪口才な神器ごと叩き割る勢いで振るわれる一閃に、釈迦は本気で己の神器が砕け散る光景を幻視する。 未来が見える筈の彼にそんなイメージを抱かせる程に、アルトリア・ペンドラゴンは強い。 「はッ――!」 釈迦が歯を見せる。 その間も遍く人々を救うべき彼の両手は、目にも留まらぬ速さで動き続けていた。 人外の速度と威力で猛追して来るアルトリアの剣戟を釈迦は最小限の動きで捌き続けていく。 手を焼いているとはいえ阿頼耶識の未来視は健在だ。 其処に彼自身の技巧が合わされば、如何に相手が円卓の騎士王と言えども易々と突破する事は叶わない。 「捨てたもんじゃねぇなぁ人類史! オレも色んな奴等を見て来たが、まぁだこんな強ぇ奴が隠れてやがったか!」 「己の無知を知ったか? それしきの知見で悟った等と豪語するとは、井の中の蛙も甚だしいな」 「堅苦しく考えんなよ。悟りってのはもっと柔軟でウィットなもんなのさ――知らない事、新しい事、見た事ねぇかっけえ奴。 キミみたいなのと偶然出会って鼻明かされんのも人生の楽しみの一つだろ。つまらなくする為に悟り開くバカが何処に居る?」 アルトリアは改めて驚いていた。 この冥界を侮っていた訳ではない。 例の怪物三種に限らず、此処には聖杯戦争に呼び込むという発想自体がズレている、そういう類の存在が居る。 それは彼女も既に感じていた事であったし、よもやこれまでのような横綱相撲のみで勝ち抜けると楽観視する程彼女は莫迦ではなかった。 だがそれでも…生き物としての基礎値で明らかに己と差があるにも関わらずこうまで食い下がれる輩と早晩出会すとは思っていなかったのだ。 これが釈迦。 これが蓮座の主。 神をも恐れぬ大胆不敵な振る舞いも、ひとえに何が起ころうと彼には何も問題無いからというだけだった事を理解する。 「肩の力抜いてこうぜ…、なんて言葉は今のキミには無用かな? 王様よ」 「――ほう。参考までに聞いておこうか、何処で気付いた?」 「釈迦(オレ)の居るタイプの人類史で此処まで仕上がった剣士なんて知れてるでしょ。 まさか女の子だとは思わなかったけどね。おまけに死ぬ程グレた猛獣娘と化してると来た、誰が予想出来んだよそんなの」 騎士王アーサー・ペンドラゴン。 目前の黒く染まった暴君が"それ"とは全く冗談じみている。 だが彼女の振るうその剣の苛烈がその信じ難い事実を真実であると語っていた。 道理で強い訳だと、釈迦は思う。 強さだけで言っても最終闘争で戦った"魔王"に匹敵、いや確実に凌駕。 技の面では完全に上を行っているという人界神界引っ括めて尚際立つ出鱈目ぶりも、真名がそれだと思えば納得が行く。 「一体何があってそんな事になっちゃったのさ、騎士王の異霊(オルタ)ちゃん」 「貴様に語る義理はないな。この臓腑でも抉って聞き出して見るといい」 よくぞ見抜いた。 では死ね、と。 騎士王の魔力が再び迸る。 いや、荒れ狂うと形容すべきだろう。 実際に浴びずとも余波だけで骨肉を苛む禍々しい魔力。 それに騎士王の武芸が乗って振るわれるというのだからまさしく悪夢だった。 一振り毎に釈迦を衝撃で後退させる。 其処に間髪入れず絶速の追撃が来る。 単純、明快、故に最強。 子供でも解る荒唐無稽な無体極まりない強さが此処にある。 騎士王の剣が釈迦の首筋を斬り裂いた。 然し斬られた彼でなく斬った彼女の眉が動く。 浅い、と手応えで理解したからだ。 釈迦は最早未来視で抗える領域を超えつつある暴君の剣に対し、然し何処までも冷静だった。 一寸でも見極めを誤れば致命傷という賭けへ堂々挑み、当たり前のように勝つ。 脈の手前を通り過ぎた剣閃が次撃に変わる前に涅槃棒の一撃でアルトリアの側頭部を打った。 “…! 硬ぇ! おいおい、岩で出来てんのかよコイツの肌は!?” アルトリアはたたらさえ踏まずに耐える。 耐えてみせた上で即座に反撃して来るのだ。 その横顔からは一筋の血が垂れていたが、逆に言えばそれまで。 僅か刹那でも対処が遅れれば斬滅されている所を凌ぐ彼も彼だが、依然として戦いの主導権を握っているのはアルトリアだった。 “薄々解っちゃいたけどちょっち厳しいな。さて――どうしたもんかね” 冷や汗が流れるのを感じながらも、舌先を覗かせて笑う釈迦。 戦況は誰がどう見ても一方的だというのに怖じず臆さない。 第六天の魔王さえ下した救世主に立ち込める暗雲。 振り上げられた剣に、この長く手数の多い鬩ぎ合いを断ち切る為の力が横溢する。 反転した聖剣から燃え上がる赫黒。 大仰な予備動作等なく。 同時に、微塵の容赦もない。 王を前にして悟りを説く不遜者を糾するべく振り下ろされる一撃。 聖剣にありながら理想を謳わず、何処までも暴性のみを宿した光が鉄槌となり。 涅槃さえ消し去り蓮座に亀裂を刻むべく、煌々と振るわれた。 「塵と帰せ――『卑王鉄槌(ヴォーティガーン)』」 炸裂する光。 黒き王は蓮を枯らし根までも絶やす。 釈迦の面影が赫と黒の中に消えていく。 轟く衝撃が、確かに真昼の東京を揺らした。 ◆ ◆ ◆ 息吐く暇も忘れる攻防だった。 オルフェ・ラム・タオはこの時、自分の理解の浅さを思い知っていた。 聖杯戦争に対しても。 そして己が呼び寄せた黒き暴君の強さに対しても。 「…これ程か」 これ程か。 これ程までに強いのか、あの騎士は。 オルフェの聖杯戦争は此処まで全くの順風満帆だった。 騎士王に苦戦等なく、それどころか僅かに持ち堪えられた敵さえ存在しない。 戦いと呼んではお世辞が過ぎる。 まさに蹂躙と、虐殺と呼ぶべき一方的な戦いだけをオルフェは見せられて来た。 そんな彼らの前に現れた、初めての強敵。 騎士王の威厳に屈さず、真っ向から殴り合える稀有な英雄。 オルフェでさえ一時は苦々しく唇を噛んだ。 だが結論から言えば、その焦燥は彼の黒騎士に対する侮辱でしかなかったのだと思い知る。 興の乗った騎士王はまさに無敵の存在だった。 剣を振るえば大地が逆巻き、地を蹴れば風さえ追い越す疾風になる。 轟く魔力は迅雷の如く、振るう剣閃は雲間を裂く陽光の如く。 釈迦の存在感すら食い尽くして君臨する姿は悪食と傲慢の極み。 自分は今まで、彼女の強さの半分も知らなかったのだと。 そう理解するに十分な光景であった。 最早幕は下りたも同然だ。 聖剣は悟りを凌駕する。 暴君は救世主の心臓さえ一呑みにするだろう。 “そうだ――それでいい” 喰らってしまえ。 存在の一片も残さず凌辱してしまえ。 あんなモノがこの世に存在した事実を消し去るのだ。 オルフェは心の中でらしくもなくそう祈っていた。 怨嗟にも似た祈りを、自らの剣たるあの黒王に捧げていた。 あれの末路を見届ければこの痛みは消えるだろう。 心を苛む火傷のような疼きも失せていくに違いない。 存在の否定、歩んで来た道筋の否定、そしてあの結末の否定。 ひいては今此処に居る自分自身の――否定。 オルフェにとってあの体験はそういう物で。 自分が自分である為に、決して看過の出来ない侮辱(イフ)だった。 殺せ。 喰らえ。 踏み躙れ。 熱暴走を起こす感情に比例して視野は殺し合う二人に向け狭窄する。 そんなオルフェの耳に届く、小さな声が一つあった。 「…もし。セイバーのマスター」 「――――」 眉根を寄せて声の主を見やる。 忌まわしき釈迦の葬者たる、白髪の少女だった。 見るからに脅威には見えない。 機微に乏しい表情。 小さな背丈は特殊な力など無くとも、素手の一つで簡単に手折れてしまいそうだ。 よもや命乞いか。 こう見えて従僕の不甲斐なさに慌てふためいてでもいるのか。 口元に皮肉げな笑みを浮かべて「何か」と聞き返すオルフェ。 そんな彼の目を見据えて少女は言った。 予想の何れとも異なる、言葉であった。 「後学の為に聞かせていただきたいのですが…あなたは先刻、あの人の中に何を見ていたのでしょうか」 「…、なに?」 「私の思考機能に対する干渉を確認しました。 私に備えられたセキュリティシステムを掻い潜って感応出来る、極めて高度な力とお見受けします」 「……驚いたな。気付いていたのか?」 「詳しく話せば長くなりますが、私は見掛け通りの人間ではありません。 幾つかのイレギュラー事象の上に現界を維持出来ているだけに過ぎない、とても希薄かつ無機的な存在です」 セキュリティシステム。 無機的存在。 以上の単語だけで少女の正体はある程度予想が付いた。 要するにAI、人工知能に人の形を与えたような存在なのだと推察する。 であればアコードによる精神感応を感知出来たとしても不思議ではない。 率直に、盲点だった。 どうやらこの冥界は相当に節操のない呼び方をしていたらしい。 だが同時に、オルフェは鼻で笑わずには居られなかった。 「0と1で出来た紛い物が悟りを目指すと豪語しているのか。それは君のような存在にとって、バグと呼ばれるべき暴走ではないのかな」 「否定は出来ません。…そして、やはり伝わってしまっているのですね」 少女が言う。 オルフェは答えない。 だがその沈黙が肯定を伝えていた。 「であれば答えては戴けませんか。あなたが"彼"に干渉を行った事には察しが付いています」 「君が被造物として不出来な事は解ったが、これは酷いな。自分の置かれた状況も解らない程性能が低いのか?」 答える義理も意味もないと、オルフェは辛辣に突き付ける。 敵の問いにいちいち答えてやる義理がないというのは大前提。 そしてその上で、意味もない。 騎士王と釈迦の戦いが直に決着するのは誰の目から見ても明らかだった。 言うまでもなく、騎士王の勝利という順当な形で。 性能が違う。 年季が違う。 葬者という魔力炉の出来さえ天と地。 最初こそ予期せぬ奮戦に面食らいはしたが、あの光景を見ればそれが単なる誤差に過ぎない事はすぐ解る。 格の差は既に示されている。 結末も同じだ。 そしてサーヴァントを失えば、彼女の旅路とやらもすぐさま終わる事になる。 だからこそこの問答にはそもそもからして意味がない。 それさえ解らない程不出来であるなら哀れだとオルフェは笑うが。 それに対して少女は小首を傾げた。 煽っているのではなく、本当に理解出来ていないという風な仕草だった。 「質問。発言の意味が解りかねます」 「なら教えてやる。君は直に死ぬ。私が殺す」 「ふむ。ですが、私の英霊が黙っていないかと思います」 「それを、私のセイバーが殺す。完膚無きまでに消し去る。 だから君がこの期に及んで自発的に何かを考える必要はないし、目指す必要もない。 私が君と言葉を交わす意味も勿論ない。君の中に生まれたバグは敗北によって修復され、そして君ごと消えるんだ」 「…あぁ、成程。理解が遅れました。そして回答します。その心配は無用です」 少女は言う。 勝利を告げる王に。 「交戦はまだ終わっていません。よって、私達が個人的に語らう時間は保証されているかと」 「本気で言っているなら最早言葉もないな。狂っているだけでなく、現実まで理解出来ないとは」 「…答えては戴けないのでしょうか。彼の境地を目指すに当たり、きっと貴重な見解になると思ったのですが……」 苛立ちが脳裏に火花を一つ散らす。 取るに足らない弱者、虚構の生命。 切り捨てるには容易く、然し向けられた純粋な眼差しが奇妙に気分を荒立てる。 それは彼女があの救世主の葬者であるからなのか。 理由さえ知りたくはなかった。 どんな理由だったとしても、それがこの苛立ちを慰める事はないとの確信があったからだ。 「地獄だったさ」 根負けにも見える応答。 示してやる回答は実に率直。 少女の眉が初めて動く。 露悪的な解だと自覚はあったが嘘は言っていない。 あの光景はまさに地獄だ。 認める訳になど行かない、正真正銘の地獄絵図。 「私はあの景色を決して認めない。 あれが悟りの果て、一つの救いだなんて馬鹿げている。 あんな物、あんなモノは…只の堕落の果てでしかない」 無限に広がる極楽浄土。 全てが穏やかに凪いだ世界。 悟りの果てを謳う、堕落した地獄。 認められぬ、存在する事自体が悍ましい。 オルフェは絶世の貌に皺を寄せて憎悪を体現する。 いや、していた。 意識したつもりもないのに、その心を隠す鍍金はいつしか剥げ落ちていたのだ。 あれは地獄であったとそう認めなければ。 只でさえ敗北というバグに冒されているこの脳が本当に壊れてしまいそうだった。 救世主は認めない。 悟りなど存在しない。 そう伝えるオルフェに少女は少し黙り、それから言った。 「では、あなたは」 「…まだ何かあるのか?」 「あなたは、如何なる救いを追っているのでしょう」 目は口ほどに物を言う、という諺があるが。 まさに今のオルフェはそれだった。 最悪の嫌悪を乗せて自分が見た物を地獄と断ずるその声音。 其処に込められた熱が彼の願いの形を無自覚に表してしまう。 無機の少女はそれを感じ取って次の問いを掛けるだけ。 オルフェだけが不快を募らせる羽目になる。 何しろこの少女はオルフェの悪意に動じた風でもなく、本当に只の一意見として収めていた。 見識を聞かせろと言ったのだから何が返って来ても反論はないし、宣言通り貴重な見識の一つとして貯蔵する。 被造物故のある種愚直な純粋さは今のオルフェ・ラム・タオとは正反対で。 それが自覚出来てしまうからこそ、バグに冒されたアコードは何時までも苛立ちを殺せない。 「私は――」 口を開く。 問いなど黙殺してしまえばいい。 だと言うのに答えてしまうのは、この愚直に沈黙を返す事は自らの傷を押し広げる行為に思えてならなかったからだ。 断じて負けて等居ない。 あれは救い等ではない。 救いを謳って堕落に耽溺させるだけの腐敗した思想だ。 それを世に伝えた怠惰な落伍者の戯言そのものの世界だ。 そう断じながらオルフェは声を発するべく声帯を震わせた。 少女――プラナはそれを、只敬虔に見つめている。 これは王と開祖の決着を間近に控えながら交わされた、葬者達の小さな対話だった。 ◆ ◆ ◆ 卑王鉄槌(ヴォーティガーン)。 宝具に非ずしてその域に踏み入る、暴君の振り翳す破壊の一刀。 如何な英霊でも直撃すれば物理的に圧し折られる事請け合いのそれを前に。 釈迦はこれぞ好機と六道棍を変形させながら前に踏み込んだ。 騎士王の目が見開かれる。 今度こそ感嘆ではなく驚愕だ。 それ程までに有り得ない選択。 博打にしても分が悪すぎる断崖への飛翔。 仏は博打を打たない。 この瞬間、此奴は確かに自分だけの勝機を見据えている―― その事実に騎士王は瞠目した。 彼女は猛者の中の猛者、騎士の中の騎士、そして捕食者の中の捕食者であるが。 それでも彼女の目に確かな未来は映らない。 釈迦だけが今、これから起こる事を知っていた。 「血迷ったか、救世主――!」 「――悪いね、今は狂戦士(バーサーカー)だ!」 変形する六道。 姿を顕す次なる道は四番目。 修羅道の艱難を耐え凌ぐ大楯だった。 ――四之道・修羅道十一面観音『七難即滅の楯(アヒムサー)』。 未来を見通す阿頼耶識を超えて押し寄せる攻撃に対し、本来この楯は起動する。 然し先の猛攻で一方的に追い詰められている時、釈迦はこれを使わなかった。 今やその神器に戦乙女の姿と加護はなく。 釈迦の意思だけが六道を渡り歩かせる。 大楯が正面から、騎士王の暴虐を受け止めた。 同時に響く震撼。 釈迦とアルトリアを中心に周囲の地面が衝撃で抉れ、隕石の着弾でも起こったかのようなクレーターが広がっていく。 「づぅぅぅぅぅッ、るァァァァァァ!!」 押し返すなど無理難題。 だから釈迦は逸らす事を選択した。 楯で受け止めた格好のまま、両腕が悲鳴を上げるのも無視して傾ける。 未だ衰えず轟き続ける卑王の鉄槌を強引に逸らして即死を覆す型破りの極み。 規格外の楯があって初めて成し得る無理難題。 至近距離から自分の魔力を跳ね返される形になったアルトリアが此処で漸く後退した。 刹那、六道棍が再び変形する。 零福、第六天魔王波旬との決闘でさえこうまで早く機構を使い分けはしなかったが、それは即ちこの騎士王があれらより格上の敵だと言う事。 再び壱之道・十二天斧。 切り込んだ一撃は遂に騎士の痩躯を捉える。 騎士の双眼が見開かれた。 其処に宿る感情は間違いなく驚愕。 見据えた未来の通りの光景に釈迦が破顔する。 それと同時に短く、そして永遠のように長いこの戦いを締め括るに相応しい――此処までで最大の衝撃が更にもう一段地面を凹ませた。 ◆ ◆ ◆ 「私は、私の意義を全うする。それだけだ」 吐いた言葉は対話の放棄と同義だった。 いや、そもそもそんな物は必要すらなかったのだ。 こんな白痴めいた娘と言葉を交わす事には意味がない。 あの救世主の僭称者に師事しているような娘に語って聞かせる程、オルフェは自分の志を低く見積もったつもりはなかった。 問いに応じてしまった事からして間違い。 そう気付くと、熱の上った頭が急速に冷えていくのを感じる。 そうだ――これでいい。 屠り葬るべき敵に意味を求める事は無意味で、等しく無価値だ。 戦闘に、蹂躙に血が通っている必要はない。 重要なのは過程ではなく結果。 勝利して勝ち取った戦利品以外、この世界で有意な事物等ありはしないのだから。 「…そうですか……」 少女の声は心做しか残念そうに聞こえた。 だがもう一度言う、知った事ではない。 敵に知見を求める発想からして馬鹿げている。 求道者を気取りたいのならば一生この黄泉路で迷っていればいいのだ。 尤もその旅路は遂げられる事は愚か、最早先へ続く事すらないが。 確信を以ってオルフェがそう呟くのと――彼の目前で白い少女が攫われるのは全く同時の事だった。 「オッケー退くぞプーちゃん! 悪っり、ありゃ今倒すには重たすぎるわ!」 無粋極まりない乱入の主は言うまでもなく蓮座の主。 だがその姿は当初出会った時と比べて格段に血腥い。 あちこちに切り傷が走り、未だ塞がらず血を流している。 彼の発言を聞く限りでも、戦況が如何なる物であったかは明らかだった。 思わず口角が歪む。 やはり張りぼて、単なる鍍金か。 然し無論、逃がすつもりはない。 いや…己のセイバーが逃がす筈もない。 「――尻尾を巻いて逃げ出すか救世主。見窄らしい物だな、宛ら鼠のようだ」 「何とでも言っとけ。結局喧嘩ってのはさ、最後に勝った奴が一番偉いんだよ」 「そうか。だがおまえは、その"最後"とやらに辿り着く事さえない」 殺せ。 オルフェの意思に呼応するように黒い軌跡が走る。 逃しはせぬと騎士王の殺意が冷淡に告げていた。 正しき騎士王ならば逃げる背中に切っ先を向ける真似に抵抗も覚えるかもしれない。 されど今此処に居るのは正しからぬ、狂おしく歪め染められた卑王。 その黒き魔力は全ての敵を駆逐するまで決して止まらない。 だからこそこれは、これが、最高の凌辱になる。 オルフェ・ラム・タオの観た屈辱を否定する刃になる。 その認識は決して間違ってはいなかったが。 陥穽があるとすればそれは、敵も決して孤軍ではなかった事。 「非礼を詫びます」 少女のか細い声。 それと同時にその手にずっと握られていた傘の露先が、オルフェの方を向いた。 そして響き渡る破裂音。 同時に傘…そう擬態していたショットガンの弾丸が爆ぜる。 英霊と死霊が跋扈するこの冥界で神秘も持たない重火器が果たせる役割はたかが知れている。 現にばら撒かれた鉛玉は騎士王に剣の一閃で一掃される。 だがプラナにしてみればそれでも一向に構わなかった。 重要なのはこの凡そ完璧に等しい騎士王が一瞬でも意識を背けねばならない状況。 それさえ用立てられるなら、自分の師(サーヴァント)は必ず目的を果たせるという信頼だった。 何故なら彼は人界の救済者にして救世主。 その両目は未来を見通し、結末を先に知る事が出来る。 「オルタちゃん、勝負は預けた――また会おうぜ! そん時は改めて語り合おう!」 「逃がすと思うか」 「逃げんだよ!」 事実。 追うアルトリアも内心で舌を打っていた。 直接矛を交えたからこそ解る事だが、認め難い話、この男には何か底の知れない物があった。 純粋な実力の高さや技の巧拙には留まらない厄介さ。 出力では圧倒的に優れている筈が、気付けば喉元に刃を突き付けられている。 まるで英雄譚のご都合主義でも目にしているような不快感。 これが釈迦だと言われてしまえば返す言葉のない、彼にしか許されない定義不能の強さがあった。 それを踏まえて騎士王はこの瞬間にはもう確信してしまっていた。 ――恐らくこれ以上はどうあがいても追い付けない。 あの白い娘に銃を撃たせた瞬間がそれを決定付けたのだ、と。 “逃げ足の速い奴だ。追ったとして、追い付ける保証はない” “……” “その上で問うが、追うか?” “……いや、いい。私も頭が冷えた。この序盤から無駄に労力を使うのも無意味だ” 王の進言を受けたオルフェは一転冷静だった。 この騎士が"追い付ける保証はない"と言うのだ、其処には暗に此処が手の引き時だというニュアンスが含まれている。 その事を感じ取った若き王は垣間見せた激情を撤回して手を引いた。 仕損じた形にはなるが、こればかりは初手から予想外の大物を引き当ててしまった事を不運と思う他あるまい。 それに自分の体たらくにも問題があった。 よもやあれしきの事で心を乱され、剰え茫然自失と立ち尽くす無様を晒すなど我ながら言語道断だ。 心を乱す必要はない。 聖杯を手に入れる為の作業など単調であるに越した事はないのだ。 良い薬になったとでも思って己を慰める他ないだろうと、オルフェはそう判断する。 「その傷は」 「最後に一撃貰った。あの様子では他にも手札を隠しているな」 「深くはないな?」 「霊核には達していない。掠り傷と呼ぶには不格好だが似たような物だ」 命令通りに追跡を中断したアルトリア。 その鎧の胸元には大きな亀裂が刻まれていた。 血が滲み出ている辺り、肉まで斬撃は届いているようだ。 釈迦の大斧に引き裂かれた傷。 それは彼らにとって今しがたの戦いがこれまでのような易しい物ではなかった事実を端的に物語っている。 無敵に等しい武を持ち、振るうアルトリア・ペンドラゴンでさえもが初戦で傷を負うのだ。 聖杯戦争は次のステージに突入した。 最早今までのような無味乾燥とした、単純単調な戦況は期待出来ない。 オルフェにそう実感させるには、敵を取り逃がした上に傷まで負わされたこの事実は十分な大きさを秘めていた。 「愚問だと信じるが」 「何だ」 「よもや、無様に項垂れては居るまいな?」 「舐めるな」 アルトリアの問いに即答を返す。 「アコードの力を逆手に取られるのは確かに予想の外だった。紛れもない手抜かりだ、それは認める。 だが解ってしまえばどうという事もない。次は私もあなたも不覚を取らず、救世主の首級を奪い取る。それまでの事だ」 「ならば良い。女のように女々しく腐る姿だけは見せるなよ」 「舐めるな、と言った筈だ」 あれは偶々起こった事故のような物だ。 主人は人ではなく、従僕の精神構造は異常だった。 逆にそうした例を早く知れた事は長期的に見ればプラスでさえあるだろう。 少なくともオルフェ・ラム・タオはもう二度と同じ轍を踏まない。 感応を張るリスクも承知して物を考え、手を打つ。 暴虐の化身たる騎士王を送り込み、事を成す。 抜かりは二度となく、そして変わらず自分の王城は盤石だ。 そう断ずるオルフェに、アルトリアはそれ以上何も言わなかった。 何も言わず武装を解き当代風の装いへ戻る。 只それでも、その胸元にある傷は健在だった。 その流血を…これまで一度も見る事のなかった騎士王の血を見ると、オルフェはどうしてもあの屈辱を思い出してしまう。 想起される。 あの――あり得ざる未来が。 “紛い物め。次は決して逃さない” オルフェ・ラム・タオは断言する。 釈迦など、奴等など、自分にとっては単なる逃げ足の早い鼠でしかなかったと。 信じているからこそ彼は揺るがない。 騎士王の異霊を呼び寄せたアコードの王は未だ健在。 彼らは依然変わらずその脅威で冥界を脅かし続ける。 だがオルフェという男が幾ら優秀でも、其処には一つ見逃せない欠陥がある。 彼が心を持たない完全なる被造物であったならば…本当に一切の嘘偽りなく、次の一歩を踏み出す事が出来ただろう。 然し現実は違う。 彼には心が在る。 そういう余白を、その完全性の中に抱えてしまっている。 故にどう取り繕おうと、あの瞬間に垣間見た景色は彼の脳に消えぬ炎として焼き付いていた。 無限に広がる争いなき地平。 完全なる充足は悟りの中に。 隔離も管理も必要とせず。 誰もが、そうまさしく全ての生き物が平等に自由を噛み締め世界と調和する穢れなき浄土。 彼の…彼らの。 生まれたその意味も意義も否定する――一つの"結果"。 オルフェ・ラム・タオはそれを認められない。 一笑に付し、釈迦の首を取る事で完全に否定する心算だ。 それでも。 仮にその処断を果たし終えたとしても。 最早あの瞬間に見た結果(イメージ)は、傷として彼の存在そのものへ焼き付いた。 忌まわしき未来は今後常に彼へ付き纏う。 どれ程の勝利を重ねようと。 いつか敗北に土を舐めようと。 あの蓮の大地がその心から完全に消える日は来ない。 王は歩み続ける。 そして王は、生きている。 完成された新たな人類だろうと、其処に心が在る限り逃れる事の出来ない痛み。 疼き続ける傷がまた一つ――オルフェの気高き魂を穢した。 目を背け続ける。 直視して、痛みに打ち克つ。 その選択は王の意思に委ねられている。 何処までも気高く、そして脆く弱い…王の意思に。 【新宿区/一日目・午前】 【オルフェ・ラム・タオ@機動戦士ガンダムSEED FREEDOM】 [運命力]通常 [状態]健康、釈迦及び彼の中に見たイメージに対する激しい不快感(小康状態) [令呪]残り三画 [装備] [道具] [所持金]潤沢 [思考・状況] 基本行動方針:聖杯を入手し本懐を遂げる 1.…ままならんな。 2.バーサーカー(釈迦)とその葬者は次に会えば必ず殺す。………………紛い物が。 [備考] 【セイバー(アルトリア・ペンドラゴン〔オルタ〕)@Fate/Grand Order】 [状態]疲労(小)、胸元に斬傷 [装備]『約束された勝利の剣』 [道具] [所持金] [思考・状況] 基本行動方針:蹂躙と勝利を。 1.…さて。 2.バーサーカー(釈迦)は面倒な相手だった。次は逃さん [備考] ◆ ◆ ◆ 「大丈夫なのですか、バーサーカー」 「あぁ、まあ深手は何とか避け続けてたからな。 あっちにブチ込んでやった傷と比べればトントンだ。とはいえ結構疲れたよ、腕が千切れそうだ」 晴れて騎士王からの撤退を果たしたプラナと釈迦。 プラナの心配に、釈迦は笑顔を見せて答える。 だがその体には幾つもの生傷が覗いており見た目は惨憺としている。 彼らが出会してしまった主従が、紛れもない外れ籤であったのは認めざるを得ない事実だった。 釈迦の武芸と未来視。 更には神器の機能を用いた変則的な戦闘スタイル。 それでありったけ翻弄して尚攻め切れず、最後は尻尾を巻いて逃げ出すしかなかった。 “あのまま続けてたら…どうなってたかねぇ。勝ったとして、オレも無事じゃ済まなかったろうな” 戦いを振り返って改めて結論付ける。 あの黒騎士は、間違いなく戦士として一つの完成形に達していた。 力と技、そしてそれらを支える体の全てを兼ね備えたマスターピース。 正直な話、あれを見た今では聖杯戦争の過酷さを見誤っていたと言う他なかった。 人類最高の闘士の一人として釈迦は断ずる。 あの領域のサーヴァントが複数存在するのなら。 あの黒騎士がもしこの世界の"最強"ではないと言うのなら。 「…もしかするとラグナロク以上かぁ。やだやだ、とんだ厄ネタに首突っ込んじまったな……」 ――この冥奥聖杯戦争の規模(スケール)は、あの人神最終闘争を優に上回ると。 心底億劫そうな顔で、然し釈迦はそれを認めた。 結論付けるにはまだ早いが、その可能性を念頭に置いて進んだ方が良いだろう。 人類史を逆さに引っ繰り返して行われたあの潰し合い。 人類の存亡を懸けた神々との殺し合い。 あれさえ凌駕する規模の戦となると、最後には一体どんな事になるのか流石の釈迦も見当が付かない。 鬼が出るか蛇が出るか。 それとも――それ以上の何かが顔を出すか。 阿頼耶識の未来視は世界の行く末まで見通せる程高度な物ではない。 よってこの冥界の行く先は、釈迦をしても予測の利かない未知として未だ暗雲の内に覆い隠されているのが現状だった。 「悪かったな。オレももう少し格好良いところ見せたかったんだけど」 「いえ。こうして生き延びられただけでも十分です。それに」 「それに?」 「少しですが実りのある対話が出来ました。…欲を言えばもう少し言葉を交わしてみたかったですが」 「ああ。あの金髪の兄ちゃんか」 プラナは釈迦の言葉に腕の中で小さく頷く。 結局名前も聞けず仕舞いだったが、相手の心境とは裏腹にプラナは彼へ強い興味を抱かされた。 人の心を覗き見る能力。 意義を果たすという事に懸けた劫火のような熱量。 似て非なる存在ではあれど、プラナと彼、オルフェはある一点に於いて共通している。 造られた存在である事。 使命を帯びて生み出された導く者(コーディネイター)である事。 その事はあの短く、そして不完全な対話の中で薄々だが感じ取る事が出来た。 「良い男だったね」 「…良い男? 見た目の話でしょうか」 「違ぇよ。形は違うがプーちゃんと同じさ。自分が置かれた運命の中で藻掻き、足掻いてる。 彼もまた思春期の中に居る。それを収穫出来るかどうかは自分次第だけど、オレは好ましく思ったよ」 「私と、同じ…」 そう聞くとますます惜しくなる。 あの状況で我儘を言う事は出来なかったが、欲を言えばもう少しだけ彼と言葉を交わしてみたかった。 或いはこう思う事自体、以前の自分とは違った思考なのだろう。 未だ目指した到達点には掠れもしていない自信があるが、無駄にはなっていないと信じたい。 そんな事を考えながらプラナは思いを馳せた。 釈迦の言う通り彼もまた藻掻いているというのなら。 あの完璧を体現したような男が溺れる運命とは、一体如何な形をしているのだろう。 「…難しい物ですね、生きるという事は」 独り言のようにそう呟く。 この冥界にはどんな運命が、そして物語が生きているのだろう。 星は地上という名の空を眺める。 導く者は導かれる者へ。 その足で世界を歩き、見つめ、対話し続ける。 小さな星は今も夢の中。 仮初の体で仮初の土を踏む。 …ふと、心の中に誰かの背中が思い浮かんだ。 優しい人だった。 自分の事なんて何も顧みず、誰かの為に駆け回り続けた人だった。 今はもう居ない人だった。 星が空を見上げる。 其処には誰も居ない。 けれど居ると今だけは非科学的にそう信じた。 口が動いて呼んだ誰かの名前は、彼女以外の誰にも聞こえなかった。 それで、良いのだった。 【中野区/一日目・午前】 【プラナ@ブルーアーカイブ】 [運命力]通常 [状態]健康 [令呪]残り三画 [装備]傘型ショットガン [道具] [所持金]無理をしなければ生活に支障がない程度 [思考・状況] 基本行動方針:旅をする 1.…あなたもこんな気持ちだったのでしょうか? 2.セイバーのマスター(オルフェ)に対する関心 [備考] 【バーサーカー(釈迦)@終末のワルキューレ】 [状態]疲労(中)、全身に切り傷 [装備]『六道棍』 [道具] [所持金]なし [思考・状況] 基本行動方針:ゆるりとやっていく。旅は楽しくなくちゃね。 1.もうちょい逃げたら休憩かな…追って来てはないみたいだけど。 2.オルタちゃん(アルトリア)強すぎ! あんなのがまだゴロゴロ居るとかマジ? …マジっぽいんだよなー。 [備考]
https://w.atwiki.jp/indexssindex/pages/144.html
11時00分 ここはある高級住宅街にあるアパートの一室。カーテンの隙間から差す強い日差しから目をそらした。 「…もうこんな時間かァ」 覚醒した白髪の少年はベッドから上半身を起こす。無造作にかけ布団を跳ね除けると、フラフラとした歩みで洗面所へと向かった。顔を洗い、歯を磨く。そのために洗面所へと向かった。 あ? 鏡を見て、違和感を覚えた。有るべきところに、有るものが無い。 (……チョーカーが無ぇだと?) 驚愕を覚えた白髪の少年、『一方通行(アクセラレータ)』は思案した。 いや、思案していること自体に驚愕を覚えたのだ。 なぜ彼は思案することが可能なのか。これ自体すでに奇妙なことだった。 「一方通行(アクセラレータ)」はある事件以来、自己の思考能力を失っている。そのため 情報処理や能力発動時に必要な演算能力は、チョーカー型電極を通して「打ち止め(ラストオーダー)」を介するミサカネットワークに任せてある。それが、無いのだ。 一気に睡魔が吹き飛んだ。 「っ!ラストオーダーァ!」 声を出しても返事は無く、部屋中を見回しても「打ち止め(ラストオーダー)」の姿は無い。黄泉川愛穂は現在入院中であり、この一室には彼以外誰もいない。 いや、彼以外誰かが居たという形跡が何も無かった。 「どうなってんだァッ!?」 部屋にあった携帯電話を取ると、とある人物へ電話を入れた。しかし、 「この番号は現在使われておりません――――」 「んだとォ!?」 (何が起こった?『上』は出られなくてもメッセージは受け取れるはずだ。まさか、アイツラ消されたんじゃ無ェだろうな。闇が闇に葬られたってワケか?にしちゃあ処理が早すぎる) 「…しかも何で俺は歩けるんだ?」 杖を使わずとも歩行に何ら違和感が無い。その上―――― シュッ、と黒い物体が彼の眼前を通り過ぎた。 「―――能力まで元に戻っていやがる」 手元にはM93R-βカスタムと呼ばれるハンドガン型の自動小銃があった。棚に閉まってある拳銃を彼の「ベクトル」の能力で引き寄せたのだ。自身の演算に寸分の狂いもない。 昨夜、彼が眠りについたのは午前4時前後。いくら7時間の空白があるとはいえ、彼に気づかれぬままここまで大がかりなことが出来る筈がない。となるとこれは超能力か魔術の類となるだろう。様々な観点から思考を重ねていた時――― (どわぁー!?って、起きていきなり能力を使うとは何事だー!とミサカはミサカは貴方の乱暴さに避難の声を叫んでみたりー!) と、元気な「打ち止め(ラストオーダー)」の大声が―――― 「聞こえた」。 12時09分 (――――――――ということなの。信じてもらえたかな?とミサカはミ…) ガッシャーン!とテーブルにあった一枚の皿が、触れられること無く天井に叩きつけられた。 「っるせぇなあ……」 (…でも、本当のこと。ミサカはミサカは真剣に告げてみる) 「ッ!!…だからァ、うるせぇって言ってんだよおおおおォ!!」 白髪の少年は、感情のままにガラス窓に思いきり頭をぶつけた。 鈍い衝撃音と共に頭に激痛が走る。 このアパートの窓は防弾用に作られている。一人の少年が頭突きした程度では傷一つつかない。しかし、タンパク質でできた彼の額の皮膚は衝撃に耐えられず、赤い血が滲み出してきた。 だが、そんなことは瑣末な傷など痛くも痒くもない。 彼の心を貫いた大きな傷跡に比べれば――― 一時間前に遡る。 「……おい、かくれんぼはナシにしようぜェ。俺は色々聞きたいことあンだよ」 『一方通行(アクセラレータ)』は状況に混乱していた上に、近くからは間抜けなラストオーダーの声が聞こえた。今回はどれほど手の込んだイタズラを仕掛けてくれたのか。大脳の感覚器にダイレクトに電気の疑似伝達を促し、今のビジョンと感覚を見せているのだろうと考え、こんな素敵なお遊びのお返しに、このアパートの最上階からパラシュート無しのスカイダイビングをさせてあげようと思案し―――― 要するに『一方通行(アクレラレータ)』は今にもブチ切れそうだった。 しかし、待っても一向に「打ち止め(ラストオーダー)」が姿を見せる気配は無い。 「お嬢ちゃァん。隠れないで出ておいでェー。さもねぇと、辺り一面ハチの巣になるぜェ?」 聞かれただけで通報されそうなセリフを吐いたが、 返事は無い。 「…ほォ。こりゃお仕置きが必要みてェだなァ」 何の躊躇もなくM93R-βカスタムのセーフティを外し、スライドを引いた。ガチャリとパラベラム弾を装填する金属音が鳴る。 「十数える間に出てこォい。ラストオーダー」 と言いつつ、先ほど声がしたドアの方面に銃を向けた。 (…降参する気は、無ぇみてえだな。朝っぱらからとはイイ度胸してやがる) 「じゅう、きゅう、…いっちぃ、ぜーろぉ」 十全部数えるのも面倒なので、トリガーに力を込めようとした時―――――― (朝っぱらから笑えないセルフジョークをかましてるのは貴方だよー!!!ってミサカはミサカは現在の前頭葉に配信される定期型電気信号の正常機能にリサーチをかけてみたりー!?) 大声で叫ぶラストオーダーの声が「聞こえた」。 「ァッア!?どっから叫んでんだぁ!?」 脳に響くほどの大声。声は銃口を向けている方向の逆。つまり居間のほうから聞こえた。『打ち止め(ラストオーダー)』はすぐ近くにいる。それは間違いない。しかし、辺りを見回しても誰もいない。 (ミサカはいないに決まってるじゃん!って当り前のことを言わせないでってミサカはミサカは朝から緊急時の演算アプリケーションを起動させられたことにプンプン怒ってみる!) 「うおおぉオッ!?」 『一方通行(アクレラレータ)』の体がフワリと宙に舞った。 さらには右手にあった拳銃は、ユラユラと元にあった下から二番目の戸棚へ飛んでいきながら、空中でカチャリカチャリと安全装置などがかかっていく。まるで透明人間がそこにいるが如く。 「お、おいっ!これはお前の仕業かッ?とっと下ろしやがれこのクソガキがァ!」 (俺の能力が『打ち止め(ラストオーダー)』に操作されてるだと?しかも、拳銃みてェな小さい物体にあんな細かい動作も同時に演算できンのか!?) 大気の流れを組む大規模な高速演算も困難な部類に入るが、実は微小な『ベクトル』演算の方が難しい。 重い物質を動かす時にはその物体が動くほどの『ベクトル』を加えればいいし、人を吹き飛ばすほどの風圧を生み出すためには人間が吹き飛ばされ、かつ人間が死なない範囲の『ベクトル』量を加えればいいだけのことだ。しかし、空中で携帯電話のボタンを的確に押すような精密な演算は困難を極める。拳銃の場合なら些細な演算誤差で安全装置をかけるどころか引き金に『ベクトル』が向き、誤って発砲してしまうかもしれない。 地面から一メートル程の高さで何のなす術もなく浮上している彼だが、現在の状況を冷静に分析していた。 (…………ッ!!) いきなり、大きな音をたてながら彼は地面に叩きつけられた。 「がっ!…あっ」 たかだか100センチ程の高さとはいえ、受け身もとれずに仰向けに倒れると痛い。 (クソガキって言った言ったぁ!!絶対言わないって約束したのにぃー!『貴方のこと、信じてたのに!』とミサカはミサカは人気ドラマの手塚かなめの名ゼリフを真似してみりぃー!?) 頭が割れそうなくらいの大声が『一方通行(アクレラレータ)』に「聞こえた」。 (何なんだァ?こいつの声は直接脳に響くみてぇに…) ちょっと待て。直接、脳に響くだと?――――――――― 「……ラストオーダー。お前、俺のアタマに何埋め込みやがった」 腑に落ちた。姿を見せない少女の声が「聞こえた」ワケが。 しかし、疑問は募るばかりだ。 「一体何処からこのメッセージを流してンだ?…『上』にやられたのか?」 ドス黒い怒りが彼の心に湧きあがってくる。 だが、彼の心の闇をさらに濃く染め上げたのは他ならぬ彼女本人の言葉だった。 (何を言ってるのかなー?ミサカの肉体はとうの昔に無くなってるよー、ってミサカはミサカは呆れながら貴方に呟いてみる♪) 12時04分 「ふ、ふふふ、ふふふふ、不幸、か?俺は…」 ここは長点上機学園内の中央に噴水がある大広場。長椅子にもたれつつ上条当麻は呟いた。現在は正午を過ぎた頃であり、昼休みになるまであと30分ほどはある。右手には先ほど学園内にある喫茶店の少女からタダでもらったカプチーノを持っている。 チュルルー、とストローからカプチーノを飲み干して一言。 「…どうなってんだ、本当に」 携帯に表示されていた日時は、普通の世界から丸一年たった「未来」だった。 長点上機学園二年特別クラス。兼『風紀委員(ジャッジメント)』第七学区担当委員長。 これが現在の上条当麻の肩書だった。はぁー、と大きなため息をついた。 長点上機学園に編入するだけでも異例中の異例なのに、『風紀委員(ジャッジメント)』第七学区担当委員長まで務めていると来た。これはもう頭を抱えるしかないだろう。『風紀委員(ジャッジメント)』となるにも試験を含めて最低6か月程度はかかるというのに、この一年余りで生徒数が一番多いこの第七学区担当の長になるというと、正攻法では到底たどり着ける筈もない。 つまり、この一年の間に、それだけの地位につける「何か」を俺がやらかしたのだろう。 と、未来に起こりうる自分が巻き込まれる「事件」に少しブルーになった。 それに御坂美琴。一年であれだけの成長を遂げた美琴の成長ぶりにも驚きだが、それ以上に驚愕したのは彼女との関係。この一年で御坂美琴と上条当麻は、情事を軽く言い合えるほど深い関係にまで至っていた。現在の上条当麻はそんな記憶は無いので、ただ驚くばかりだ。 しかし、一つだけ分かることがある。これは単なる罰ゲームの延長線上では無く、二人の相思相愛の下で至った結果なのだと。 携帯電話の裏側を見る。 そこには顔を寄せ合い、無邪気な笑顔で写っている一枚のプリクラが貼られていた。御坂美琴と上条当麻のツーショット。そこにある二人の表情からも読み取れる。本心から互いに惹かれ合っているのだと。 「…あいつ、こんな顔で笑うんだな」 今朝に会った美琴の笑顔、仕草、言葉。上条当麻が抱いている彼女のイメージとはずいぶんと異なる。上条は彼女の知られざる一面を垣間見ているような気がした。周囲をビリビリと帯電させているような攻撃的な御坂美琴では無く、愛らしい一人の少女としての御坂美琴。そんな彼女の姿に心奪われ―――――― 「って、何考えてるんだ俺はああああああああああああああああああぁぁ!!!」 バサバサァッ!と噴水の周囲にいた鳩の群れが上条の突然の叫びに驚き、四方八方に飛び散っていく。頭を抱えながら立ち上がった上条当麻は、数回、深呼吸を繰り返し徐々に落ち着きを取り戻していった。 (冷静になれ、クールになれ。これは現実じゃない。リアルじゃないんだヨ!) 可愛らしい御坂美琴や家事を手伝ってくれるインデックスにちょっぴり心にひっかかりを覚えた上条だったが、今はそれどころでは無いと自分に言い聞かせていた。 そして――― 「カーミやーんっ。お届けもの、持ってきたぜ―い」 救世主の声が、聞こえた。 「つ、土御門っ!!」 声が聞こえた背後に振り替えると、長点上機学園の制服姿の土御門元春の姿があった。 「なっ!?そんなに大声出して、これがそんなに待ち遠しかったのかにゃー!?カミやん、今回はマ、マジでご堪能する気かー?常盤台のエース様にあんなことやこんなことをっ?この果報者がぁぁ!!」 「土御門、聞いてくれ!実はブゴハァあああっ!?」 訳も分らぬまま、上条当麻は金髪グラサンに思いっきり殴られた。 「………ほう、カミやんは俺に殴られたせいで記憶がぶっ飛んだと、そう言いたいのかにゃー?」 「だから違うって言ってんだろ!マジだ、大マジだよ!」 「わかってるって、分かってるってー。カミやんが嘘を言ってないことくらい顔見ただけでわかってるにゃー?」 「…何で最後が疑問形なんだよ」 土御門にはすべてを話した。自分が置かれている状況、記憶の全て、空白の一年があること、そして、現在は自分がいる場所では無いことを。 広場には長点上機学園の生徒がチラホラ見えてきた。時間は昼休みに入ったようだ。 「それで、土御門もこの学園の生徒なのか?」 「……マジみたいだな。いや、違うぜい。長点上機に編入したのは後にも先にもカミやんだけだ。今年の春からだったな。小萌センセーなんて、ショックで丸一週間酒とタバコを忘れていたらしいからにゃー」 「じゃあ、なんでココの制服着てんだよ」 「そりゃあ、親友の頼みの為にワザワザ危険を冒してまで来たんだぜい?」 「?その紙袋はなんだ?」 「ふっふっふっ…、それは開けてのお楽しみだにゃー。カミやんがソレを俺に頼んだんだぜい?これで前の借りは返したってことにゃー」 「???」 「まぁ、今は分からなくっていいぜい。時が経てば教えてくれるからなー」 あばよ、という感じで手を振りながら去っていく土御門。 「ちょ、ちょっと待ってくれよ。土御門!俺一人じゃあ何も出来ない。協力してくれ。この通りだ!」 上条は土御門に大きく頭を下げた。 「当たり前だろ、カミやん。今からツテに連絡を入れるところだ。残念だが俺はカミやんと同じ状態では無い。むしろカミやんのほうが異常に見える。しかし、『幻想殺し(イマジンブレイカー)』を持っているカミやんが魔術の類にかかるとは思えない。早急に手を打つぜい」 「…土御門」 いつもフニャフニャしていて義理の妹にゾッコンなアブナイ野郎だが、いざという時には頼りになる。いい友達を持ったもんだと上条は思った。 「超能力って線もあるかもな」 そう言った時、土御門の顔から笑顔が消えた。 「土御門?どうしたんだ。一体…」 「カミやん。この世に『超能力』なんて、何処にも存在しないぜ」
https://w.atwiki.jp/seisoku-index/pages/783.html
上条が寮から最寄りの駅に帰ってきた時には、日が暮れていた。 暗くなった道をふらふらと歩く。 支部に戻ってから、 黄泉川に『隠してた罰として今回の報告書を書くじゃん』と言われ、 結局最終下校時刻ギリギリまで残るはめになった。 「うぉー寒い」 時折吹く風に身を縮ませながら、電灯が並ぶ幹線道路の歩道を歩く。 この時間帯なら学生が出ていてもおかしくはないが、寒さのためか一人も見かけない。 当然のことであり、いつものことだが、今の上条には何故かそれが寂しく思える。 あの事件の後、正確には美琴にあった後から、 上条の頭の中というか心の中というか、 とにかく説明しがたい身体の内が、説明しがたい感情で溢れていた。 何が原因で何に対してなのか、上条にはわからない。 ただ ──御坂美琴に会いたい。 なぜなのかわからない、愛しいなどの意味ではないし、会えば何か解決するとも思わない。 ただ…何となく。 いつもの公園に差し掛かった。 彼女と会うのは大抵この場所。 居るわけがないとわかっているが、どうしても公園を見回してしまう。 少し遠回りにはなるが壊れた自販機の所を通る。 上条は知っている。 いつも急いでいる時に現れるくせに、こうしてたまに会いたいなんて思った時に限って── 「─っくしゅん!」 「…あれ?」 「あーやっと来た。アンタってばいっつも遅いんだから。 おかげでこっちは鬼の寮監にラブコールをするはめになったのよ」 美琴は自分の腕を寒そうに撫でながら言う。 「え、何してんだ?ビリビリ」 「何って、これよ」 美琴がポケットから何かを取り出して上条へ投げる。 慌てて受け取ると『ホットおしるこ』だった。 「この前奢ってくれたでしょ、それのお返しよ」 「お返しって…それじゃ奢りにならねーじゃん」 「いっ…いいから!ありがたく受け取りなさい!」 「へいへい」 そう言って上条はプルタブを引いて一口飲むが。 「あの…美琴さん」 「何よ?」 「冷めてるんですが…」 「え…う、嘘!」 「お前ここまで冷めるまで待ってたのかよ、缶ジュース一本にどれだけプライドかけてるんだ」 美琴は顔を真っ赤にしながらそっぽを向く。 「ち、違うわよ! 故障…そう、この自販機が故障してて温かくないだけよ、ほらこの前だって間違って商品出してきたじゃない!」 必死な美琴を見て、上条は小さく笑う。 少し虐めてみたくなった。 「いやぁ、でも冷めてるっていっても冷たいんじゃなくて、生温いって感じなんですがねー」 「う…」 「何と言うか、買ってしばらくたってしまった生温さってとこかなー」 「───」 「あ……」 バチバチという音が聞こえて、上条は顔を青くする。 美琴を見ると、顔は俯いているが耳まで真っ赤で、髪の毛先からはバチバチと青い光が散っている。 「この野郎!」 「うぉわ!」 バチンを飛ばされた電撃を右手ではらう。 「あ…」 間抜けな声と共に美琴が立ち尽くした。 あぶねーだろ!と一喝しようとしたが、そんな美琴を見て上条は不安そうに問いかける。 「あの、御坂?」 「ね、ねぇ…変なこと聞くけどさ」 「あぁ?」 「今日、お昼過ぎって…何してた?」 美琴の質問に身体が強張る。 今回は身体から火薬の臭いがする筈もないし、昼間のことを仄めかす言動もしていない。 「あぁ…昼は補習だったよ。 何分出席日数が足りない上条さんは冬休みなんて無いも同然です」 「そう…そうよね!しっかりしなさいよ! 分からないとこあれば教えてあげるから!」 少し安心したような、それでも不安そうな笑みを浮かべる美琴。 「おいおい、それ言われた俺の立場になってみろって! 俺は高校生ですよ!美琴さんより2つも年上ですよ」 ふざけながらも、上条は心の中で美琴に謝る。 嘘だらけの中で、いつもの自分が演じられているのかが不安だ。 「あ、冷めてるんだったわね、貸してみなさい」 思い出したように美琴が手を出す。 「あぁ?いいよ、冷めてても大丈夫だし」 「いいから!さっさと貸す!」 そう言って上条から強引に缶を奪う。 「私は電撃使いよ?電子レンジでも電磁調理器にでもなれるわ」 「それって言ってて悲しくないか?」 「う…細かいことはいいの!」 美琴は缶をベンチに置いて両手をかざす。 美琴の手と缶の間に電撃が走ったりはしないが、しばらくすると缶から湯気が上ってきた。 「んー調節が難しいのよね…」 「御坂、右手…」 上条は美琴の右手に巻かれた包帯を見て小さく言う。 「ごめん、ちょっと今集中してる」 「いいから!」 美琴の右手を強く引く。 上条の声に一瞬驚いたためか、缶から中身が少し溢れてしまったが、上条が右手で手を引いたため能力は止まる。 「ちょっ…ちょっと!」 「この怪我は?また何か無茶したのか?」 もちろん上条は、美琴がどこで怪我をしたのか知っている。 しかし詳しいことが知りたい、毎度のように美琴が怪我を負う危険があるのなら、指を咥えて見ていられない。 「ちょ、ちょっとした事件よ。ほら、ジャッジメントになったって言ったでしょ? それで今日事件があって…もちろん!私が行ったんだから、ささーっと解決しちゃったけど」 「それで、この怪我は?能力者にやられたのか?」 「えぇっと…これは、その、何と言うか…」 もじもじと、なぜか恥ずかしそうにする美琴。 「や…八つ当たりというか…」 「八つ当たり?」 予想外の回答に思わず言葉を返してしまう。 「わ、笑わないでよ…ちょっと悔しいことがあってね、ガツーンと地面殴ちゃったわけ」 「ぷっ…なんだよ、そうだったのかよ」 思わず吹き出し、ヨタヨタと力無くベンチに座り込む上条。 「ちょっと!笑ったわね!笑ったでしょ!」 「笑いました、三段活用。あー心配して損した」 「何よそれ!アンタは私が自分でコンクリートに頭を打ち付けて怪我しても、笑って済ませるの?」 フーフーと、美琴は頭から湯気が上りそうな程顔を真っ赤にする 「冗談だよ。怪我も心配だったけど、とにかく危険なことしてるんじゃないかって」 「アンタに言われたくないわよ」 「そりゃごもっともで…」 「だからアンタ、今回だって首突っ込んでないかと思ってね」 そう言って美琴は上条の右手を見つめた。 「さっき話した今日の事件なんだけど…」 「あぁ?」 「私と同じ、電撃使いが暴走したの。 それで私が抑えようとしてね」 「それで、しっかりと事件解決できたんだろ?」 あくまで事件の概要は知らないフリ。 その場しのぎでは無い嘘をつくことがここまで難しいとは思いもしなかった。 「結果はそうなんだけど…ちょっと気になることがあって」 「もしかして俺に関係あることか?」 「わからない… でも、ちょっとドジして、暴走した能力者の電撃がアンチスキルとかの居るところにいっちゃったの… さっき言った悔しかったのはこのこと。 だけどね…その電撃は消えたの」 消えた─という単語を聞いて、上条は次に来る質問がどんなものなのか予想はついていた。 「アンタが右手ではらったみたいに…」 「そう…か」 「本当に何も知らないの?本当に今日のお昼は補習受けてたの?」 美琴の問いかけに、上条は固まる。 正直なところ、隠さずにはなしてしまえればどれほど楽だろうと思う。 それでもなお隠し続ける必要はあるのだろうか。 元はといえば、美琴のような人が事情を知って首を突っ込んでくるのを恐れていた。 しかし、結局美琴は自分の考えで、自分の道で事件と向き合っている。 それなら隠す必要も無いのではないか… いや── 上条が事件に関わっていると知れば、美琴はもっと深く危険なところまで来るかもしれない。 それならば、今の状況がいいのかもしれない。 と上条は少々強引に、甘える自分を押し込めた。 「ねぇ…聞いてる?」 「あ、あぁ悪い…少し考えたけど、本当に何も知らない。 そんなことより、その能力者は結局どうしたんだ?」 「その電撃の行方を見た後に振り返ったら、気を失うところだった…」 「気を失ったから、電撃は消えたんじゃないのか?」 「そう考えるのが自然よね…ごめん、疑ったりして」 美琴は悔しそうに両手を握る。 「さっき、ささっと解決したとか大きいこと言っちゃったけど、結局私は何もしてないの…」 力無く言う美琴の手を、上条は思わず握った。 「そんなことねーよ! 御坂が戦ったから、抑えられた損害だってあるはずだ。 いや、絶対にある。御坂が戦わなかったら怪我人だってたくさん出ていたかもしれないだろ」 上条は美琴を見つめながら言う。 美琴は上条の行動に拍子抜けしていたが、合わせられた視線を外すことができない。 「そう…なのかな…」 「そうだよ、もっと自信持てよ。学園都市第三位の御坂美琴だろ」 真剣な顔で、まるで自分のことのように力説する上条を見て、美琴は小さく笑う。 「そうね…もっと自信持たないとね」 つられて上条も笑みをこぼす。 どちらからともなく手を解くと、美琴もベンチに座った。 「まったく、変なこと言い合ってる間にまた冷めちゃったじゃない」 上条との間にある缶に、美琴はもう一度両手をかざす。 「あ、悪いな」 「いいから、集中するから話しかけないこと」 「お…おぅ」 上条はぼんやりと星空を眺める。 しかしそれに飽きたため、上条は横で難しそうな表情をする美琴を見た。 細身の身体から伸びるしなやかな腕。 その先手には包帯が巻かれているが、手の甲だけなので綺麗な指が見える。 そんな美琴の右手を見て、 「綺麗な指してるんだな…手の甲の傷跡、残らないといいけど」 上条は本当に純粋な気持ちで、独り言のつもりで言ったのだが。 「ふ──」 「あれ!?美琴さん!溢れてます!溢れてます!」 「ふにゃー!」 結局、ホットおしるこは温かく美味しく飲まれることのないまま散っていった。 「じゃ、わざわざありがと」 「いえいえ、これくらい当然ですよ」 上条と美琴は常盤台の寮まで来ていた。 「ま…また今度おしるこ奢るから」 「あー今度は俺が来てから買ってくれよな」 「わ、わかってるわよ!」 「じゃぁ帰るわ」 「うん…気を付けて…」 トコトコと歩き出す上条。 ゆっくりと離れていく背中を見ながら、美琴は心のどこかが締め付けられる。 (やっぱり…) 上条が遠くの曲がり角で振り返って手を振ってくる。 美琴もそれに応じて胸のあたりで小さく手を振った。 その手を胸元へ持って行き、小さくキュッと握る。 (やっぱり嘘ついてる…) 包帯の巻かれた右手を左手でさすりながら考える。 (最初にこの怪我の話をした時、私は事件とは言ったけど、 一言も能力者の暴走だなんて言ってない…なのにアイツ…) 『それで、この怪我は?能力者にやられたのか?』 (…) 事件の内容が能力者の暴走だと言ったのは確かにこの後だ。 この時点ではまだ事件があって怪我をしたとしか言っていない。 偶然かもしれない。 今の事件と聞けば能力者の暴走と考えるほうが自然かもしれない。 (だとしても…) 美琴は納得できなかった。 上条の言い方に、どことなく違和感を覚えた。 かと言って、本当に上条がこの事件に関与しているという確証もまだ無い。 上条が現場にいたかは謎だ。 ジャッジメントの支部に戻ってから、 初春に頼んで現場付近にある防犯カメラの事件当時の映像を読み込んでもらおうとしたが、電撃使いの能力者が暴走したためかどれもダウンしていた。 上条の言う通り、能力者が気を失ったから電撃が消えたのかもしれない。 仮に上条が右手を使って警備員本隊の前で電撃を打ち消したのなら、誰か警備員は見ていたに決まっている。 本隊の中に学生服の彼がいれば目立つだろうし、現場から離れさせられるはずだ。 だが警備員の答えの中に上条の目撃情報は無かった。 (難しく考えないほうがいいのかしら…) 美琴は頭の整理をしながら寮の中へ入る。 寮監に帰ったことを伝えると、無言のまま視線だけで部屋に戻るように指示された。 部屋に戻ると、黒子は珍しく普通に寝ていた。 鞄を置き、手の包帯をゆっくりと取る。 (綺麗…か) さっきの言葉に少し顔を赤らめながら着替えを持ってシャワールームへ入る。 タッチパネルに触れると今の自分に合った温度のお湯を出してくれるが、今は少し熱いお湯を浴びたいので少し温度を上げる。 (わからない…アイツの考えも、私の考えも…) 肌に当たるお湯が心地良いが、頭の中はもやもやとしたままだ。 (仮にアイツが何か隠してるのなら…どうして?私じゃ力不足だって言うの?) あの少年がいつも厄介事に首を突っ込んでいるのは知っている。 だが美琴が知るのはいつもボロボロになった彼、入院している彼。 ある時はボロボロになった身体で、病院から抜け出してきたところの彼に会った。 その時も、結局美琴は止めることしかできず、それでも彼は止まらなかった。 そして (何もできなかった…) ロシアで彼が戦っていることを知り、自分の能力を最大限に駆使して無我夢中に追いかけた。 やっと同じ土俵に立てたと思っていたのに、彼の背中は思っていた以上に遠くて。 (嫌だ…) 頭に浮かぶのは、ロシアでやっと彼を見つけた時のこと。 VTOLから必死に手を伸ばした。 自分に気付いた時、純粋に嬉しかった。 しかし自分の手を取ることは無く、遠ざかっていく──。 (置いてかないで…) はっ、と涙が出そうになるのを堪える。 (ダメダメ!ここで泣いても仕方ないでしょ、第一何がそんなに悲しいのよ) ペチペチと頬を軽く叩く。 もしも彼が関わっていたとしても。 今回の事件は学園都市の中で起こっている。 自分だって風紀委員として事件に関われる。 いつものようにはさせない。 同じ場所に立っている。 (しっかりしなさい、御坂美琴。 私情を持ち込んでたらジャッジメントなんてやってられないわよ。 よし、とにかく。今後このこと考えるの禁止!) 仮定を立て続けても仕方が無い。 美琴は気を取り直して髪の毛を洗おうと手を上げるが。 「いッ───!」 考え事をしていたからか、今まで右手の痛さに気付かなかった。 手を上げたために、シャワーから勢い良く出るお湯が傷口へ直撃。 「───」 黒子を起こすとまた面倒なので、必死に声を抑える。 結局堪えた涙はお湯と共に流れることになった。